Research Abstract |
本研究は大量定年時代を迎えた現代社会において,ライフイベントである退職が労働者のメンタルヘルスやQOLに与える影響を明らかにし,退職を控えた労働者への適切な健康支援策に結びつけることを目的とするものである。 1).質的インタビュー調査;男性労働者(現役労働者,再雇用者,完全退職者)計25名を対象にして定年退職に対する思いについて半構成的面接を行い,逐語録を作成後,内容を分析した。精神健康度についてはCES-D得点を用いた。CES-D得点は10.6±5.8点で精神健康度が比較的高かったが,現役労働者が最も高く,再雇用者と完全退職者は低かった。定年退職に向けての不安は経済面,健康,1日の過ごし方,子供の将来,親の介護などがあった。定年後について「仕事が忙しすぎて時間的余裕がなく考えたことがない」との語りや定年退職後の生活について「趣味を続ける」,「そのときになって考える」という語りがあった。現役労働者の再雇用希望については,再雇用希望者41.2%,退職希望者35.5%,未定23.5%で,再雇用希望者は「働けるうちは働きたい」という思いが強く,退職希望者は「今まで働いてきたからもういい」という一方で,「できなかったことに挑戦したい」という思いがあった。現役労働者では定年退職後の人生の選択肢が多岐にわたり,必ずしも定年退職をライフイベントとして捉えていないことが推察された。 2).前向きコホート調査:ストレス関連項目および生活習慣項目および定期健康診断項目については毎年実施される健康診断時に継続的にデータ取得を実施し,質的インタビュー調査から得られた情報を基に,定年前後のメンタルヘルス・QOLに影響すると考えられる因子(退職準備行動,婚姻状況,同居者,再雇用希望の有無,所得,支出,家庭環境,ソーシャルキャピタルなど)を抽出した調査表を作成し,退職予定者を対象にした調査を実施中である。
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