2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21652028
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
大野 雅子 Teikyo University, 外国語学部, 准教授 (80233229)
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Keywords | 18世紀英国 / 紅茶 / 女性 / 階級社会 / 消費社会 / 贅沢 |
Research Abstract |
本研究は、17世紀後半から18世紀前半にかけての英文字において、紅茶が女性・家庭・上品・贅沢などのイメージとともに表象されることを検証し、その歴史的経緯を解明することを目的とする。政治的混迷が続く17世紀のイギリスにおいて世論形成の場となったコーヒーハウスは男性的な場とされる一方、紅茶は富裕階級の女性が家庭で飲むための女性的な飲み物とされた。男性的領域と女性的領域の分割が飲み物を通じて行われ、その飲み物の属性・価値・イメージが逆に女性性や男性性を定義づけるのである。ヴィクトリア朝に至ると紅茶=女性・家庭というアイデンティティーは自明のこととされるようになるが、その歴史的理由を明らかにすることを試みる論考は少ない。本研究はその歴史的過程を脱構築することによって、紅茶がいかにして女性を「女性性」の枠の中に閉じ込めたか、「上品な飲み物である紅茶を飲む上品な女性」というイメージを通じていかにしてイギリスの階級社会が形成されていったか、さらに、階級社会と消費社会がいかに関連しあっていたかを分析しようとするものである。本年度は17世紀後半から18世紀前半にかけて数多く書かれた紅茶を賞賛する詩を研究した。文学的価値を高く評価されることのないこれらの作品群においては、「紅茶を庇護下におくために競い合うギリシャの女神たち」、「ティーテーブルでの求愛を経て結婚に至る男女」、「女神に嫉妬されてティーポットに変身させられる女性」などが描かれる。詩人は紅茶と紅茶を飲む女性をおおげさに賞賛するが、賞賛が大げさであればあるほどその声は空しく響く。中世・ルネッサンスの時代から続く女性賛美の底に潜む女性蔑視の伝統がこの時代において「上品ぶって紅茶を飲む女性」という変奏を得たのではないかという結論に達した。
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Research Products
(1 results)