2011 Fiscal Year Annual Research Report
社会参加としての在日朝鮮人文学-磯貝治良とその文学サークルの活動を通して
Project/Area Number |
21652035
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
浮葉 正親 名古屋大学, 留学生センター, 准教授 (40252291)
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Keywords | 文学論 / 各国文学 / 在日朝鮮人 / 在日朝鮮人文学 / 文学サークル / 磯貝治良 / 戦後文学 / 社会参加 |
Research Abstract |
本研究は、作家・磯貝治良(75)の単行本未収録の作品や彼が主宰する文学サークル「在日朝鮮人作家を読む会」(以下、「読む会」)の30年以上にわたる活動を可能な限り記録し、それらを電子化して保存・公開することを目的としていた。本年度は、昨年度に引き続き、1960年代から70年代にかけて磯貝が同人誌『北斗』や『東海文学』などに発表した小説や評論、発表作品一覧、「読む会」の活動記録(準備会~第400回)、同会文芸誌『架橋』の総目次(創刊号~第31号)を電子化した。最終年度に当たるため、これまでの研究成果を紙媒体の報告書(A4版・全100頁、300部)としてまとめ、小説30篇、評論2篇、ルポ1篇を収録したCD「磯貝治良作品集1ver.1」を添付した。その一方、ホームページ「ジローの文学マダン」(http://iSOjiro-yomukai.com)を作成し、報告害のデータを公開した。これらにより、1960年代はじめから1970年代後半に「読む会」を立ち上げるまでに磯貝が同人誌に発表した作品群を多くの人が読むことができ-るようになった。磯貝自身が記録した執筆ノートを整理したことで、文学だけでなく、彼が参加したさまざまな市民運動についても詳細が明らかになり、文学による社会参加(アンガージュマン)を目指し、それを実践してきた磯貝の活動の全体像が浮かび上がってきた。海外の実存主義文学や日本の戦後文学に深い影響を受けた磯貝は、主に東海地方の同人誌や1970以降は『新日本文学』に活動の拠点をもとめ、権力に抑圧された民衆やいわれない差別に苦しむ社会的な弱者を主人公とする数多くの作品を発表している。その延長線上に「読む会」を立ち上げた磯貝の文学活動は、日本の戦後文学と在日朝鮮人文学とをリンクさせた希有なものであり、今後、在日朝鮮人文学と日本文学との接点を研究するうえで新たな手がかりを提示するものであるといえよう。
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