Research Abstract |
新規神経毒の化学的解明は,薬理学,神経科学,精神医学など広範な生命科学の基礎研究の発展に貢献し,また新規薬剤の創製にも直結する.一方,自然界には活性物質の不安定さや稀少性が障害となり,科学的に解明されていない生物現象が数多く残されており,新奇な有用生物活性物質の発見が期待される.毒をもつ哺乳類であるトガリネズミやカモノハシ由来の特異な麻痺性神経毒の解明を目指して,本研究を実施した.トガリネズミ由来の麻痺性神経毒の研究では,米国に棲息するブラリナトガリネズミの顎下腺抽出物に,鳥の神経筋収縮作用やミールワーム麻痺作用,およびマウス脳内投与における特徴的な麻痺・痙攣作用を見いだした.これらの麻痺活性はプロテアーゼ阻害剤による影響を受けなかったことから,タンパク毒ブラリナトキシンとは異なることが示唆された.そこでこの麻痺活性を指標に,逆相およびゲルろ過カラムで顎下腺抽出物を分離し,分子量約5kDaの低分子化合物をほぼ単一に精製することに成功した.構造や機能の解析を進めている.またカモノハシ由来の有毒成分の研究では,豪州タロンガ動物園の協力を得て採取した毒液から,ヘプタペプチドHDHPNPRを含む11種の新物質を発見し,化学合成して立体配置を決定した.ヘプタペプチドは哺乳類に普遍的に存在するC型ナトリウム利尿ペプチドのN末端断片であるが,自然界からCNP断片化ペプチドを実際に単離したのは今回が初めてである.またヘプタペプチドは,ヒト神経芽腫細胞(IMR-32)に対する細胞内Caイオン流入作用や,マウス脳内投与における痙攣活性など,特異な生物活性を示した.痛みや痛覚過敏の作用メカニズムに何らかの作用を示すと予想され,関連受容体との相互作用について,検討を進めている.
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