Research Abstract |
本研究では,多重課題下での注意配分と姿勢制御応答との関係性を明らかにすることを目的とした.健常若年者30名と地域在住高齢者29名を対象として,異なる課題条件下で反応時間(RT),下腿筋活動,身体動揺を計測した.課題条件は,砂の入ったグラスを保持した安定床面での立位(single-task),水の入ったグラスを保持した不安定マット上立位(dual-task),水の入ったグラスを保持して想起課題を課せられた不安定マット上立位、(triple-task)とした.各課題条件で,刺激音に対して保持したボタンをなるべく早く押すまでの時間をRTとして計測した.また,下腿筋活動を表面筋電計にて導出し,音刺激が呈示される直前5秒間の実効値(RMS)を求め,最大随意収縮にて正規化した.さらに,各課題条件下での身体動揺を腰部に貼付した3軸加速度計により評価し,3軸のRMSから合成加速度を求めた.二元配置分散分析の結果,RTおよび前脛骨筋の筋活動,合成加速度は,群および課題条件による有意な主効果を認め,交互作用も有意であった(p<0.01).一方,腓腹筋の筋活動は,課題条件による有意な主効果を認めたものの,群と課題条件による交互作用は有意ではなかった(p=0.70).下位検定の結果,RTは各群ともにsingle-task,dual-task,triple-taskの順で有意に遅延した.群間で姿勢制御応答の変化を比較すると,高齢者群ではdual-taskと比較してtriple-taskで前脛骨筋の筋活動が有意に減少したのに対して合成加速度が有意に増大し,若年者とは異なる変化を示した.二次課題を付加することで,両群ともにRTは有意に遅延し,とくに高齢者でRTの遅延が顕著であった.二次課題を付加した際の筋活動や身体動揺の変化は若年者と高齢者では異なり,認知課題を付加することで高齢者の前脛骨筋の筋活動は低下し,身体動揺が増大した.このことより,二次課題の付加が姿勢制御応答に及ぼす影響は若年者と高齢者では異なることが示唆された.
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