2009 Fiscal Year Annual Research Report
物品使用行為の組織化メカニズムを探求する-脳損傷患者の視線分析を通して-
Project/Area Number |
21700560
|
Research Institution | Himeji Dokkyo University |
Principal Investigator |
小田桐 匡 Himeji Dokkyo University, 医療保健学部・理学療法学科, 助手 (30388904)
|
Keywords | 物品使用障害 / 失行 / 視線分析 / 目と手の協応 / 神経心理学 / 認知神経心理学 |
Research Abstract |
脳損傷により、明らかな運動麻痺や認知症がなくとも、習慣的で系列的な物品使用がしばしば妨げられる。本研究の目的は、伝統的な各種神経心理テストに加え、新たに視線計測装置を用いて、物品使用行為の成立を左右する情報探索過程の特徴を明らかにすることである。そして特定の認知機能障害と視線との関連性を検討することから、物品使用における様々な認知機能の役割と物品使用行為の組織化メカニズムを解明することを最終目的とする。 平成21年度の研究結果から、特に遂行機能障害が著明な患者の場合、大きく2つの情報探索過程に問題が生じていることが判明した。1つは、目下把持する道具(例:のり)の操作対象となる物品(例:封筒)への、操作(例:のりを付ける)直前の視覚的な対象特定が極めて不十分であったという点である。つまり患者は、健常者と異なり、内的に準備された単一行為が、実行為へと転換する際の引き金に相当する、環境内のキュー情報が不足した状態で、系列的な物品操作を試みていることが推測された。2つ目は、当座の操作対象では無いものの、後々の操作対象となる対象物品に対し、事前の準備的な視線が極めて不十分であったという点である。このことは、たとえ習慣的な物品使用であっても健常者は、その目的達成に向けて、当座の操作対象と並行する形で、後々の操作対象を捉えていることを示し、情報探索の観点から2つのシステムが作動していることを示唆する。そして視線と行為の時間的関係性の違い(直後の行為に関連する視線か、後々の行為に関連する視線か)から、後者では視空間情報の一時的保持といった遂行機能との関連性を示唆するものであった。さらに、患者の物品使用が良好に推移した際には、このいずれの視線も改善する傾向が認められた。本結果が他の認知障害を呈する患者でも共通するかは今後研究予定である。本年の結果から、視線分析が、物品使用行為のメカニズム解明に有用であると考えられる。
|