2010 Fiscal Year Annual Research Report
物品使用行為の組織化メカニズムを探求する-脳損傷患者の視線分析を通して-
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21700560
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Research Institution | Himeji Dokkyo University |
Principal Investigator |
小田桐 匡 姫路獨協大学, 医療保健学部, 助教 (30388904)
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Keywords | 物品使用障害 / 失行 / 視線分析 / 目と手の協応 / 神経心理学 / 認知神経心理学 |
Research Abstract |
本年は小脳損傷を呈した症例の系列物品使用障害について詳細な分析を行い,その情報探索過程の特徴を検討することを通じて,系列物品使用における小脳の役割について高次脳機能の側面から明らかにした.小脳損傷患者の物品使用時の外界探索の特徴は,当座の行為に関連する物品への視覚探索は健常群と同様な傾向であったが,後々の行為対象物品への先行注視は有意に低い傾向にあった.また,行為の対象を間違えたり,順序を間違えるようなエラーが生じた時には,その誤って使用した対象への行為直前の注視が有意に低いことも明らかとなった.逆に不必要な行為を余分に付け加えるような場面では,その誤撰択肢への過剰か注視が課題の最初の段階から確認できた.このような視覚探索の特徴がどのような心理学的な問題を反映するか,神経学的な検討に加え,神経心理学的諸検査を実施して,上記行動との関連性を検討した.まず視覚探索の特徴は眼球や手の運動失調の影響から説明出来ないことが確認された.また行為関連検査,道具や行為の知識や記憶に関わる検査結果でも本症例の物品使用の問題を説明できないことが確認された.その一方で,例えば先行注視における課題特異性の分析から,先行注視は行為の空間的な組織化を促すための空間参照の形成に貢献することが示唆された.この結果は,行為の順序配列に向け,環境内に散在する対象物品への事前探索やその空間配置における作業記憶に小脳も関与していることを示唆する.このような解釈は,小脳が大脳皮質との緊密な線維連絡があるという神経解剖学的知見や,機能的にも定位や視空間的な作業記憶の形成など高次脳機能への貢献を指摘する神経心理学的研究やイメージング研究,さらには近年小脳の本質的な情報処理特性として提起されている順序性処理仮説とも一致することが明らかとなった.以上のような行動学的,心理学的研究によって,習慣的な系列物品使用行為においても,その遂行を促進するために高次脳機能(視空間的作業記憶)が作用すること,そして小脳も空間参照形成に繋がるような情報探索過程,順序探索過程を通じて高次脳機能の働きに関与することが示唆された.
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Research Products
(1 results)