2010 Fiscal Year Annual Research Report
古代インドにおける発酵乳の研究-ヴェーダ文献を中心として
Project/Area Number |
21720016
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西村 直子 東北大学, 大学院・文学研究科, 専門研究員 (90372284)
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Keywords | インド学 / ヴェーダ学 / ヴェーダ祭式 / 乳加工 / 発酵乳 / ソーマ / 新月祭・満月祭 / インド哲学 |
Research Abstract |
ヴェーダ文献に基づく,古代インドの乳加工を巡る神学議論と生活形態及び食生活の実態解明を目指し,2010年度はサーンナーイヤ及びアータンチャナを巡る神学議論を精査した。「インドラによるヴリトラ殺し」の神話とこれに関する議論の部分について,ヤジュルヴェーダ学派に伝わる各文献の翻訳と相互対照に基づく精査とが中心となった。これらは新月祭・満月祭の供物であるサーンナーィヤの由来と神学議論の章に相当し,凝固剤(発酵促進剤)アータンチャナとその代用品に関する言及を含む。前年度の成果を踏まえてサーンナーイヤの実態を解明し,ダディ,アーミクシャー,パヤスヤーとの間にある相違を明確にした。サーンナーィヤが発酵乳(ダディ)と加熱乳との混合物であるのに対し,アーミクシャー及びパヤスヤーは酸化によるタンパク質の凝固がもたらしたカテージチーズ様のものであるという結論に達した。また,共に言及されることの多いヴァージナは,乳清(ホエイ)であると考えてよい。アーミクシャーを巡る神話に関するカタ派の伝承などから,アーミクシャーとパヤスヤーとは,同一の乳製品が時代の推移に伴う祭式理解の変遷に基づいて,異なる名称で呼ばれるに至ったものと推測される。これらの乳加工の背景には,発酵乳を巡る神話と神学議論とが深く関わっている。5月の印度学宗教学会(大阪国際大学)では,発酵乳だけでなく乳加工全体の概観に触れ,8月の国際宗教学会(トロント)では神話と神学議論について,9月の日本印度学仏教学会(立正大学)では具体的な加工工程と文献学的,言語学的問題について,それぞれ位相を移して研究発表を行った。また,当時の牧畜生活が医学的な人体理解(特に産科学)の基盤形成に関与していた可能性を,12月のインド思想史学会(京都大学)において具体的に指摘した。
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Research Products
(7 results)