2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21720022
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
青柳 かおる 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20422496)
|
Keywords | イスラーム / 生命倫理 / ガザーリー / カラダーウィー / 死生観 / 女性 / 初期胚 / 出産 |
Research Abstract |
生命倫理の扱う幅広いテーマのうち、特に女性と出産に関わる諸問題を取り上げ、古典イスラーム思想の現代的意義を明らかにした。今年度は、特に受精から出生までの胚の形成過程に焦点を当て、(1)受精卵から人間への胚の形成過程についての議論、(2)避妊・中絶の問題、(3)初期胚の利用の問題を取り上げた。なおイスラーム世界には手術は行わず、護符やおまじないを使用する「預言者の医学」と呼ばれる民間療法があり、高度な医療に対する反対も根強いことも検討課題である。 (1)コーラン、ハディース、イブン・スィーナーの医学書などの古典においては、精液と月経が混ざって凝固し、それが成長して、霊魂が吹き込まれる過程を経て胎児が形成されると考えられている。 入魂の時期については、受胎後40日、80日という意見もあるが、ハディースに基づき120日目という見解が有力となり、現代の法学者にも受け入れられている。 (2)預言者ムハンマドが性交中断(避妊)を認めたというハディースに基づき、古典時代のガザーリー、現代のカラダーウィーを含め多くのムスリム法学者が避妊を認めている。中絶について古今の法学者に最も支持されているのは、120日目までの中絶は許可されるというものだが、ガザーリーは反対の立場である。カラダーウィーは避妊についてはガザーリーに賛成するが、中絶に関しては、120日まではやむを得ない理由がある場合、120日以降は母体の生命が危険な場合に限り許されるとする。 (3)ES細胞と関わる初期胚利用に関しては、現代の法学者や思想家によると、120日までは許されるという見解が多い。ただし受精直後から命は始まっているとする慎重な意見もあるし、コーラン、ハディースなどに依拠せず、積極的にES細胞研究を推進すべきだと考える意見もある。
|
Research Products
(7 results)