2010 Fiscal Year Annual Research Report
レコード音楽の表現形式に関する理論と分析方法の構築:空間表現を中心に
Project/Area Number |
21720046
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Research Institution | Asia University |
Principal Investigator |
谷口 文和 亜細亜大学短期大学部, 経営科, 講師 (50535515)
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Keywords | ポピュラー音楽研究 / 音楽学 / メディア表現 / レコード音楽 / 空間表現 / 空間経験 / 録音技術史 |
Research Abstract |
前年度の成果を下敷きとして、レコード音楽の空間表現の理論化を、具体的な事例に則したかたちで進めた。 まず、レコード音楽によって生じる空間性を説明するための枠組として「空間経験のモード」を設定した。レコードの音楽はオーディオ装置の再生によって鳴り響くが、その音が鳴り響く現実の空間と音楽として表現される空間との関係は、聴き手が前者を通じて後者を経験する仕方、すなわち「空間経験のモード」によって異なる。本研究では、録音技術が歴史的に発達する各段階における制作/再生環境と、そこで生み出された音楽様式の検証から、複数の「モード」を類型化した。アコースティック録音の時代、録音された対象は、それが再生される現実の空間において「そこにある」かのように経験されたが、電気録音によってレコードの音自体が遠近感をもって聴き手の前に現れるようになった。やがてハイファイの理念とともに、残響成分の付加などによって聴き手があたかも現実とは別の空間にいるかのようなリアリティを作り出すことが追求された。しかし音の「非現実的」な加工によって、リアリズムからかけ離れた、デフォルメされた空間経験が聴き手にもたらすようになった。そこに、現実空間の再現とはまったく異質な、レコード音楽独自のリアリティをもった空間表現形式を見出すことができる。以上の成果は、22年度中に雑誌論文として刊行された。 続いて、1970~80年代におけるレコード音楽空間のリアリティの変容過程について、音楽制作環境の変化とそこでの空間経験に焦点を当てて検証を進めている。この成果については23年度中の論文発表を予定している。
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