2009 Fiscal Year Annual Research Report
現代文学を通して眺めた20世紀の極限体験(収容所や原爆)
Project/Area Number |
21720127
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安原 伸一朗 Nihon University, 商学部, 講師 (80447325)
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Keywords | 対独協力作家 / ナチ占領下のパリ / ヴィシー政権 |
Research Abstract |
本年度は、1940年代前半のフランスに焦点を当てて、「極限状況下での作家の文筆活動」がいかなるものであったのかという点について、主として、パリの国立図書館の資料を調査しつつ研究を進めた。特に、第二次大戦前にはまったく政治的発言をしなかったにもかかわらず、ナチス占領下のパリにおいて突如として親ナチ的発言を繰り返して周囲を驚かせた作家、ジャック・シャルドンヌを取り上げて、およそ政治的とは言いがたい彼の文学作品と、その政治的発言および政治活動とのつながりを分析した。その分析を通じて、シャルドンヌが、当時課されていたドイツ軍による検閲を忌避するどころか、むしろ文学的創造に必要な枷と見なし、ナイーヴなまでにヨーロッパ文明の将来を「ヨーロッパ新秩序」に見て取っていたことが明らかになった。そして、戦後に執筆された作品における自身の過去の引き受け方も、けっして直接的に過去を振り返る類のものではなく、夢うつつの狭間を描くといった、きわめて文学的なものであることが分かった。このように、シャルドンヌにおいては、文学が文学であろうとし続けることによって、政治的に利用されるばかりか、作家自身もまたそれをよしとしたことが解明された。こうして、これまでもっぱらフランス伝統の心理小説の系譜に連なる作家と思われていたシャルドンヌに、新たな光を当てることができた。この成果は、論文「占領下のパリを生きた一作家の肖像--対独協力作家としてのジャック・シャルドンヌ」としてまとめられている。
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