2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代文学を通して眺めた20世紀の極限体験(収容所や原爆)
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21720127
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安原 伸一朗 日本大学, 商学部, 准教授 (80447325)
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Keywords | フランス文学 / 強制収容所 / 対独協力 |
Research Abstract |
平成23年度は、主として、第一に、20世紀における極限体験の一つであるナチス強制収容所をめぐる証言作品、およびそれらの作品にかんする文献、第二に、ナチス占領期のフランスにおける作家たち(公然と対独協力を掲げた作家たちだけではなく、フランスに留まった作家たちも含めて)の占領期の作品、および彼らにかんする研究書の収集と、読解や分析に充てられた。 それらの読解と分析を通して、まず、強制・絶滅収容所の証言作品について明らかになったのは、囚人だった生還者たちの「物語」には、通常想像されることとは異なって、収容所での生死の境目の極限体験や解放直後の瀕死の状態が「幸福感」をもたらしたといった記述がしばしばなされている点である。この点については、現在、収容所での極限体験が、世界を認識する際の枠組みである言語をいったん無効にし、あらためて獲得させ、現実を根本的に把握し直すことを可能にする過程であって、その「幸福感」が言語を再獲得する幸福感に裏打ちされていることを明らかにしつつある。 また、ナチス占領期からパリ解放直後のフランスにおける作家たちの文筆活動については、いわゆる「対独協力作家」が、パリ解放後には彼らの多くが一斉に逮捕されたにもかかわらず、フランスの旧体制の一掃をもくろむパリの作家たちと、フランスの国体を維持せんとするヴィシーの作家たちとに大別されるばかりか、それぞれ作家たちの間で個別的に大きく隔たっており、相互に厳しく対立していたことの実情を解明し、「対独協力作家」の定義を試みることを目指して、現在、資料の読解と分析を進めている。その過程で、1930年代のフランスで、後に対独協力に走る王党派と並んで第三共和制を鋭く批判していた共産主義のなかでも、とくに分派者であったポリス・スヴァーリンの位置づけについて、翻訳、解説した。 今後得られた研究成果の発表については、現在、いくつかの論文として発表すべく、まとめている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予想された以上のペースで、ここ数年の問に、ナチス占領期のフランスをめぐって複合的に分析した文献が多数刊行され、それらの研究を精査することに予定以上に時間を要しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題のうち、原爆をはじめとしたアジアにおける証言作品と極限体験の関係については別の機会に研究を行なうこととし、以下の2点に絞って研究を遂行していくことにする。第一に、ナチス収容所にかんする証言作品の分析を通じた、強制絶滅収容所体験の意義の多角的な検討。第二に、ナチス占領下におけるフランスの対独協力作家たちの動静や文筆活動の分析を通した、検閲や粛清といった極限体験の多面的な解明。
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