2010 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア語の動的事象の推移の記述にみられる言語的世界像
Project/Area Number |
21720133
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
金子 百合子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (80527135)
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Keywords | ロシア語 / アスペクト / 限界 / 日本語 / 対照研究 |
Research Abstract |
日本語の「"非標準的"アスペクト形式」(Alpatov1998)と名付けられる「テシマウ」「テオク」「テミル」はアクチュアルな意味でロシア語の完了体動詞に相当することが多い, 1.K tomu ze,padaja,ja(A)slomal ruku. Tocnee,ne(B)slomal,a povredil./さらに倒れるとき、ぼくは腕を(A')折ってしまった。より正確に言えば、(B')折ったのではなく、傷つけたのだが.(ドヴラートフ『かばん』).ロシア語では限界到達事態は、通常、出来事として完了体動詞が文法的に表現する(A,B)が、日本語における出来事は限界到達と必ずしも結び付かない。限界到達を強調するには「不可逆性」を意味する「テシマウ」形で語彙的に、主観的評価を加え、表現する(A')。(B')は「ノダ」文で動作が名辞化され,出来事の記述というよりは動作の名付け機能が前面に出ている. 2.Ja nadel kurtku. Ona byla mne vporu./ぼくはジャンパーを着てみた。ぼくにぴったりだった。(同上)。完了体動詞が表す「限界」は語りの文では新たな状況の開始」という側面を前面に出し場面を展開するが、その日本語訳に「テミル」形が登場することがある。「テミル」形はロシア語の試行動詞((po)pytat'sja/(po)ctarat'sja)とは大きく異なる。ロシア語の試行動詞は、対象となる動作の望ましい限界到達(=成功)を目的に試みることで、当該動作のみで意味的なまとまりをなす。一方、「テミル」における"試行"の目的は必ずしも動作の成功にはなく、当該動作の境界を越え、関連する別の状況を評価することにある。完了体動詞と「テミル」形の相関関係には,個別動作の動作主としての主体の視点が優勢なロシア語と,連続する諸状況の観察者としての主体の視点が優勢な日本語の対立が見て取れる。
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Research Products
(5 results)