2009 Fiscal Year Annual Research Report
性からみるオリシャ崇拝の変容:アフリカ由来の宗教を実践するアメリカ黒人の社会運動
Project/Area Number |
21720324
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小池 郁子 Kyoto University, 人文科学研究所, 助教 (60452299)
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Keywords | アフリカ系アメリカ人 / アメリカ黒人 / 社会宗教運動 / 性 / オリシャ崇拝 / 人種 / 民族 / 宗教実践 / ナイジェリア / ヨルバ / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
本年度の研究では、アメリカ黒人の社会運動(オリシャ崇拝運動)における性的慣習について検討を試みた。1970年代から80年代半ばにかけて、運動の拠点である「オヨトゥンジ村(以下、村と略記)」では、内婚制、婚姻に係る年齢規定、家族制度、税制度、一夫多妻制などがみられた。ここでいう内婚制では、村の成員を大きく二つのリネージにわけることで、観念的な内婚制が目指された。同時に、村では21歳以上の女性は必ず、婚姻可能な男性と結婚したうえで、「家」に所属しなければならなかった。ところが、男性は婚姻資格として必要な納税基準を満たすことは難しく、村には婚姻可能な男性が少なかった。つまり、村の構造によって、村では一人の男性が複数の女性と性的関係をもつこと(一夫多妻制)が奨励されたのである。これは、村の「家」に所属していない21歳以上の女性は、すべて王の妻とならなければならなかったことからも明らかである。 その一方で、村の性的慣習は、村の内部でみられた権力闘争とも関連している。男女を問わず、より地位の高い首長と夫=妻関係を築けば、自身だけでなく、家系の宗教的、社会的、経済的地位が上昇すると考えられたからである。また、村を「オシュン(性的魅力のある神、愛にあふれる神)」と関連づけて語ることは、オリシャを崇拝することで授かるとされる豊饒性に依拠している。 以上、オリシャ崇拝運動を実践しない人々にとっては、村の性的慣習は、村の成員が性的な道徳性に欠如していたと非難されるべきものである。一方、運動に従事している人々にとっては、それは村の規則や制度によるものである。そしてなによりもそれは、オリシャの豊饒性の証と結びつけて語られるのである。つまり、1970年代から80年代半ばにかけて、村で実践されていた性に関わる規則には、それぞれ両義的な価値があり、村が崩壊し、オリシャ崇拝運動が衰退したことと密接に関連している。
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