2011 Fiscal Year Annual Research Report
性からみるオリシャ崇拝の変容:アフリカ由来の宗教を実践するアメリカ黒人の社会運動
Project/Area Number |
21720324
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小池 郁子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60452299)
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Keywords | アフリカ系アメリカ人(アメリカ黒人) / 社会運動 / 性 / オリシャ崇拝 / 人種(民族) / 宗教・文化実践 / ナイジェリア(ヨルバ) / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
本年度の研究では、アメリカ黒人の家族の「問題」にたいして、アメリカ黒人の社会運動がどのように対処してきたのかを検討した。アメリカ黒人の社会運動や社会文化活動〈全国黒人実業連盟、公民権運動、ブラック・モスレム、ブラック・パワー運動〉にみられる対処法は、「モイニハン・レポート」(1965)と通底する部分が多い。これは、端的に言えば、アメリカ黒人の家族にまつわる問題を解決するには、家父長制にもとづいた家族を形成する必要があり、そのためにはアメリカ黒人男性の「男らしさ」を醸成しなければならない、というものである。しかしながら、公民権運動以降、おもにアメリカ黒人女性のなかで、アメリカ黒人の家族問題を改善する策として家父長制に過度に傾倒することにたいする批判の声があがるようになった[hooks 1992、萩原1997、Girloy 2000、風呂本2003、フックス2010(1981)]。 本研究では、オリシャ崇拝運動にみられる宗教的疑似家族や、家族に関する価値観、性役割、性規範などを取り上げ、運動が紡ぐ縁がアメリカ黒人の家族問題、すなわち性の逸脱や男性の社会からの孤立化とどのように関わっているのかについて考察を試みた。オリシャ崇拝の家族や性にまつわる特徴は、大きく分けて三つある。(1)性ではなく、司祭歴をもとにした階級制度と宗教的疑似家族の形成、(2)一夫多妻制とその解釈にみられる男女差、(3)性を受容する価値観(非-禁欲主義)である。これらの特徴によって、オリシャ崇拝運動の女性成員は従属的な地位に甘んじることなく、家父長的な社会運動そのものを変革しながら運動に従事している。これは結果として、男性成員に「男らしさ」を求め、それにもとづいて家父長的な家族を形成するという価値観や自由労働イデオロギーから男女双方の成員を限られた領域においてではあるが解放することにつながっているといえる。
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