Research Abstract |
「官僚制の効率性と民主性」といった古典的テーマに対し,分析手法として,ゲーム理論と計量分析を導入しつつ,経験的なデータに基づきながら両者の関係を解明し新たな知見を得ることが,この研究の目的である.最終年度に当たる平成23年度においては,分析結果をまとめ,その成果の公表を進めていった.具体的には,平成23年度の日本比較政治学会の共通論題において,「官僚制と民主制」と題し,口頭報告ならびに報告論文の提出を行った.この論文については,平成24年度の学会年報に収録される予定である.そこでは,両者の関係をゲーム理論によりモデリングし,そこから導出された仮説について,国際比較データに基づいて計量分析による検証を行った.理論モデルからは,民主制と権威主義体制では,為政者が異なる動機づけから,費用を負担してでも質の高い官僚制を選択しうることを示した.そしてまた,官僚制の違いは体制存続を左右する市民の行動に影響を与えることも示した.情実任用は官僚制の専門性を低下させるが,一部の市民に直接的な便益としての役職を提供するため,とりわけ権威主義体制で一部の市民の支持を調達し,体制を安定化させることに利用されうる.こうした為政者,市民双方の利害が絡み合う結果として,官僚制と政治体制の間には双方向に影響がおよぶ.こうした理論モデルの予測を,1984年以降の127カ国を対象とした計量分析により検証した. この研究は,非選出機関である官僚制を,単純に民主制に対して否定的な存在とも,かといって全く問題がない存在とも捉えることなく,両者の関係を解明したもので,これまでにない成果である.また,民主制における官僚制の意義をめぐる実践的な問いにも,学術的な解答を与える意義があると考えている.
|