2011 Fiscal Year Annual Research Report
放送制度と社会的コミュニケーションに関するマスメディアの規範理論の再構築
Project/Area Number |
21730436
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
林 怡蓉 関西学院大学, 社会学部, 准教授 (10460990)
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Keywords | テレビ / SNSメディア / call-in(コールイン) / 社会的コミュニケーション / アメリカ / イギリス / 感情 / 理性 |
Research Abstract |
23年度はこれまでの調査研究成果をいったん総括し,最終年度に向けた調査研究方針の調整を行った一方,他方では日本及び台湾の追加調査,アメリカとイギリスの放送制度,テレビを媒介にした社会的コミュニケーションの実態に関する文献調査をした.なお,台湾に関する研究成果となる論著の執筆もした. 1.【日本】2011年9月26-30日の平日のニュース番組ビデオリサーチを行った結果,番組内容の一様性と一般市民の主体的現われの不在が明らかとなった.ただし,わずかな番組(「NHKスペシャルシリーズ日本新生」等)でSNSメディアや留守番電話を利用した視聴者意見の収集と紹介が行われているが,制作側の作為的な編集が入っている. 2.【台湾】公共電視台の「有話好説」(月~水;19:00-20:00)番組の制作参与観察を行った.特に言及すべきは生放送中に寄せられた視聴者のcall-inは事前に視聴者が何を話すかの確認はせず,時間制約(2分程度)はあるが,語る内容は自由で制限がない.複数局で同様に行われていることを確認した. 3.【アメリカとイギリス】デリベラティヴ・デモクラシーを念頭においた新たな市民によるテレビ表現への参与が実践されている.アメリカの「デモクラシー・ナウ!」,「デジタル・ストーリーテリング」,イギリスBBCウェールズの「キャプチャー・ウェールズ」がその代表である.来年度はそれらの実態調査を行う. 4.【理論研究と実践調査を通して】社会的コミュニケーションにおいてメディアが人々の主体的で自由な声の具現の場となることの重要性が理論上も実践面でも確認した.このことは特に非日常的な時空で様々な需要の相違の顕在や合意に向けたすりあわせが必要な非常時,再建時に再認識されるが,東日本大震災後のテレビ局の実践では従来のマスメディアの規範観(理性/当人による感情表現の排除など)に強く拘るがために,上記の役割を十分に発揮できず,表面的な被災者への寄り添いに終わった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施途中で東日本大震災後のニュース番組の追加調査とアメリカ,イギリスに関するさらなる文献調査を行う必要性を感じ,アメリカ,イギリスのフィールド調査を次年度に見送ったという計画修正があったが,これまでの調査研究を総括し,台湾,日本の追加調査が本調査研究にとって基礎的かつ重要な知見が得られた.理論研究に関しても順調に進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行えなかったアメリカとイギリスのフィールド調査を24年度の夏に行う予定にしている.日本,台湾,中国,香港でのフィールド調査を今年度ひとまず総括したことにより,アメリカ,イギリスの調査の中心的な部分を絞ることができた.また,本研究テーマ-「放送制度と社会的コミュニケーションに関するマスメディアの規範理論の再構築」にとって大変重要な知見が各国のフィールド調査で得られた.従来のマスメディアの規範理論で求められた「理性」,「社会的責任」により,マスメディアで積極的な人々の主体的な現われが重視されていなかった.しかし,インターネットという誰でも自由に表現できる場がある時代に,ともすれば表現しても誰の目にも触れないで終わる可能性を強く残すインターネットとは違い,より多くの人々が日常的に何気なく接している放送がより積極的な役割を果たし,社会的コミュニケーションの中心媒体となることが不可欠である.最終年度では,これまで行った社会規範理論に関する政治哲学,批判的社会理論研究と実証研究を総括し,政策提言できるレベルに仕上げることを目標とする.そして,本研究の中心となる台湾部分の研究成果をまとめた論著の公表を目指す.
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