Research Abstract |
幼児の人間関係における「同型的行為」の役割を明らかにするという研究目的のもと,(1)3歳から5歳児の同型的行為の発達的変化,(2)仲間関係の成立に見られる同じ物を持つことと、物をめぐる規範意識の関連,(3)協同場面にみられる同じ身体の動きや同じ言葉の繰り返しの意味の3つの目的で研究を実施した。 このうち,目的の(3)に関して,本年度は,過去の観察記録の事例を分析し,「葛藤場面における子どもの相互行為-子どもが他者と同じ発話をすることに注目して-」という題目で論文を執筆し,学会誌「子ども社会研究」にて発表した。この論文では,幼稚園の葛藤場面の事例を分析し,葛藤場面で幼児が他者と同じ発話することが,(1)他者への同調によって仲間関係を確認する機能を持つこと,(2)身体の動きや表情,声の調子,情動価などの身体性の共有を子ども間にもたらすこと,(3)発話を繰り返すことによって,遊びの性質を帯びることを明らかにした。さらに,葛藤場面における他者と同じ発話をすることは,ふざけやからかいとして相手に不快な感情を生じさせる場合もあることから,子どもが感情を言語化したり他者の感情を理解したりするために,保育者による適切な援助が必要となることも指摘した。 また,保育実践における保育者と子どもの身体的行為の記述と分析に関して,日本質的心理学会のシンポジウムで「『実践としての身体』を記述する研究のあり方について」と題して指定討論を行った。この指定討論では,看護や教育,保育などの実践における身体の記述は,「個別性/具体性」を難れてはあり得ないこと,さらに質的心理学の研究における記述は,「個別性/具体性」と「一般性/抽象性」を往還するものであることを指摘した。
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