Research Abstract |
我が国において,大学・短大の入学定員が進学希望者数を上回るという,全入時代が到来しようとしている。とはいえ,定員割れに苦しむ大学・短大が存在する一方で,高校卒業者の中には,たとえ大学・短大で学ぶ能力や意欲を有していても,進学を望まない(望めない)者が多数いることを忘れてはならない。このことは,我が国にとって,人材の損失という由々しき問題である。そこで,本研究は,2006年度にイングランドに導入された新しい授業料制度である所得連動型返還方式に着目し,その制度の輸入可能性について,低所得者層の進学機会拡大という視点から,議論を展開することを目的としている。 平成21年度には,日本で収集可能な一次資料の分析をして,イギリスの新しい授業料・奨学金制度実施上の問題点を整理した。同時に,関連する先行研究のレビューも実施した。その結果確認できたこととして,(1)新しい授業料・奨学金制度は,大学進学に必要なコストを増加きせたものの,その弊害を打ち消すだけの経済的な学生支援制度の整備に繋がったたあ,経済的に最も困窮している学生に最も利益を与えたこと,ところが,(2)新しい授業料・奨学金制度に関する誤った認識の広まりから,最も利益を受ける階層の学生に「負債への恐怖心」がより強く見られること,そして,(3)この傾向は,都市部よりも農村部に強く見られること,従って,(4)高等教育機関への進学におけるコストと生涯にわたる利益に関する明確な情報と,卒業後の就職環境が良くない場合に返済の免除が行われることを政府が保証しているという情報,この二つの情報の提供を全国各地で隈無く徹底することが,「負債への恐怖心」を緩和する最善の策であるといえる。 なお,分析の途中経過を含めたイギリス高等教育に関する発表を,日本比較教育学会(2009年6月27-28日:東京学芸大学)で行った。
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