2010 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスの新しい授業料・奨学金制度に関する考察:低所得者層の機会拡大に向けて
Project/Area Number |
21730622
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
田中 正弘 弘前大学, 21世紀教育センター, 准教授 (30423362)
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Keywords | 教育学 / 比較教育学 / 授業料・奨学金 / 国際情報交換 / イギリス |
Research Abstract |
平成22年度には,イギリスの新しい授業料・奨学金制度の効果と問題点を整理し,その成果を基にした日本モデル構築の可能性について,学会発表(日本比較教育学会,2010年6月27日:神戸大学)および論文「(投稿審査中)の形式で公表した(する予定である)。 例えば,新しい制度に期待できる効果の一つとして,生活給付金の増加や,生涯賃金が低い場合の残債務の消滅により,最貧層の学生が生涯に亘って最も経済的利益を得る可能性が高いことを示し,大学卒業によって得られる実益が低い場合の社会保障になりうることを論じた。また,問題点として,新しい制度は学生への巧みな増税といえること,従来の方法より財政面で効率的なのか明らかでないことなども述べた。 そして,日本モデルの構築を検討するに当たって,イギリスにはない我が国の固有の課題について議論した。第一に,納税や社会保障の統一管理システム(国民総背番号制など)が整備されていないことがある。個人の追跡が可能でなければ,滞納率は必然的に高くなってしまうためである。第二に,多種多様で数の多い私立大学の存在がある。私立大学の授業料に一律の上限を定めるのは困難であるため,イギリスの所得連動型返還方式の導入は,授業料の高騰を助長しかねない。第三に,高等教育過剰論への対応がある。大学が多すぎるという世論が強い中で,大学進学の機会拡大を根拠に新しい授業料・奨学金を我が国に導入するのは,難しいためである。 そして最後に,これらの課題を考慮した上で,日本モデルを構築する意義を再確認した。
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Research Products
(2 results)