2009 Fiscal Year Annual Research Report
偶発的契機によるキャリア形成とセレンディピティについての教育人間学的研究
Project/Area Number |
21730640
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Research Institution | Hirosaki Gakuin University |
Principal Investigator |
走井 洋一 Hirosaki Gakuin University, 文学部, 准教授 (30347843)
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Keywords | 教育学 / キャリア教育 / セレンディピティ / キャリア形成 / 教育人間学 / 生態学 |
Research Abstract |
本研究は,キャリア形成における偶発的契機を受容する能力を「セレンディピティ」と位置づけ,その内実を明らかにするとともに,偶発的契機を受容することで生じる非連続的なプロセスを含むキャリア形成の全体像を解明することを目的としている。平成21年度は,キャリア形成の先行研究及び「セレンディピティ」概念についての先行研究の収集・整理・体系化を行うとともに,イギリス(ロンドン,北アイルランド)及び国内の社会的排除の状況にある人たち(移民,女性,政治犯罪者,障害者,等)に対する支援状況についての定性的調査,すなわち,キャリアの形成途上に偶発的契機が生じた人たちがどのように社会とのかかわりを回復してきたのかを中心に聞き取り調査を行った。なお,当初計画では,スウェーデンでの調査を実施する予定であったが,調査の主たる目的としていたEUによる支援プロジェクトがすでに終了ししていたため,支援プロジェクトが行われているイギリスでの調査に変更することとした。先行研究の検討を通じて,生態学的な観点からキャリア形成をとらえ直すことでキャリア形成上の偶発的契機の受容が個人に変容を強いるものではなく社会的関係の組み直しにあること,また,個人に内在する能力として位置づけられがちである「セレンディピティ」概念も,例えばヴィゴツキーの発達の最近接領域の理論に示されるように,協同性を通じて新たな地平を獲得する能力と位置づけられることが明らかになった。こうした見方は,個人を軸とした自助努力を基盤とするのではなく,地域社会との協同性によって社会とのかかわりを回復しているという調査研究において明らかになった事実からも傍証される。生態学的な観点からキャリア形成を再構築するこうした試みは,キャリア形成を「個人(孤人)」の発達に焦点化しがちな現状を再考するうえで重要な意義を有しているといえる。
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Research Products
(1 results)