2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21740211
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
伊藤 誠 関西大学, システム理工学部, 准教授 (30396600)
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Keywords | 中性子過剰核 / 化学結合構造 / クラスター構造 / 分子共鳴状態 / 中性子移行反応 / 共鳴反応 / 単極遷移 / 核二量体 |
Research Abstract |
軽い中性子過剰核であるBe同位体では、二つのα粒子のコアが発達しており、それらを過剰中性子がつなぎとめている様な構造が発現している。これは丁度、二原子分子で現れる電子の「共有結合」に良く対応しており、こうした共有結合描像は主に基底状態近傍において良く成り立つことが知られている。 しかしながら、我々の最近の研究により、励起エネルギーの高い領域においては、「原子価結合」や「イオン結合」に類似した多様な化学結合状態が形成されることが明らかになり、更に対応する準位群は、強い縮退性を持って共存することが明らかになった。こうした化学結合状態の縮退現象は、中性子の分離エネルギーの小さいドリップライン近傍核に系統的に発現する可能性が極めて高い。 こうした背景を踏まえ、中性子過剰系の高励起状態の縮退現象の研究を現在進めている。本研究で採用される「一般化二中心クラスター模型」は、二中心系の周りでの中性子のイオン、原子、共有結合構造を統一的に記述可能であり、更に原子軌道状態から共有結合状態への転移といった、反応現象をも包括して分析が可能な模型である。これまで偶Be同位体^<8,10,12,14,16>Beに対してこの模型を適用し、低励起領域から高励起領域に渡る化学結合構造の転移現象を系統的に研究してきた。その結果、束縛状態領域では、殻模型状態と共有結合状態の競合現象が明らかになり、また連続エネルギー領域には^xHe+^yHeといったHe同位体の「核二量体」が形成されることが明らかになった。 本年度は、主に^<12>Beの一連の成果を論文として発表する作業を中心に進め、三編のRegular Articleとして発表し、海外で開催された国際会議(3回)、国内で開催された国際会議(2回)においても成果報告を行った。更に数回に渡る国内研究会においても講演を行い、国内研究グループとの討論、共同研究も進めている。また最近、理論計算を^<28>Neといった重い系にも拡張し、理化学研究所の実験グループと共同研究を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの^<12>Beについての一連の成果を査読付き学術論文に発表することができ、その上、偶Be同位体の系統的な計算を進めることにも成功した。更に、同様な理論分析をより重い系である^<28>Neへも拡張することに着手しており、これらの成果は研究計画を順調に遂行している状況と言える。更にSAMURAIスペクトロメータの完成に伴い、実験グループと密な連携研究が可能な状況になってきた。こうした側面は当初の研究計画以上の進展状況であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
高励起領域において形成される化学結合状態の実験的同定には、対象とする原子核を標的核に衝突させ、高いエネルギー領域に一旦励起し、それが複数の塊(クラスター)に崩壊することにより生じる「崩壊クラスター」を検知することが必要となる。また崩壊クラスターの測定の際には、クラスター問の相対運動量を幅広い領域に渡って同定することが重要である。ごく最近、理化学研究所でSAMURAIスペクトロメーターが完成し、この様な広運動量領域に渡るクラスター崩壊の測定が可能になった。 今後の研究を推進するにあたり、SAMURAIグループと密に連携することにより、今後の実験計画を加味しながら、理論計算の遂行と改良を行うことが重要になってくる。現在、^<28>Neの高励起領域に発現すると予想される原子価結合的な状態「α+^<24>Oクラスター状態」の測定が計画されており、それに必要なクラスター状態の生成反応断面積、また崩壊幅等の評価を担当し、実験グループと密に連携を測っている。こうした実験グループをサポートする反応計算を並行して進めることが、今後の研究に大きく展開するために必要不可欠であろう。
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