2009 Fiscal Year Annual Research Report
有機分子集合化による蛍光変化をプローブとした結晶核生成初期過程の研究
Project/Area Number |
21750021
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
伊藤 冬樹 Shinshu University, 教育学部, 助教 (80403921)
|
Keywords | 有機分子集合体 / 蛍光スペクトル / 有機結晶 / ピレン誘導体 / 高分子薄膜 / 結晶核生成 |
Research Abstract |
分子間力によって形成されているナノサイズの有機結晶では,その特有のサイズ効果を示すことが知られている.我々はポリビニルアルコール(PVA)薄膜中においてピレン誘導体の色素濃度の増加にともなう蛍光スペクトル変化を見出した.本研究では,色素凝集サイズに対する蛍光スペクトル変化と結晶成長過程との関連について検討した.PVA薄膜中におけるPyAmの存在形態をXRD測定で評価したところ,PVA薄膜中PyAm由来の回折ピークは2.0mol%の高濃度条件で観測され,PVA薄膜内にPyAm結晶領域が存在することを示している.PyAmの蛍光は濃度の増加に伴い青色から黄緑色へ変化した.この蛍光スペクトルは大きく分けて450nm, 500nmおよび540nmにピークを示す種からの発光を示す.これらをそれぞれ,モノマー,ダイマー1,ダイマー2からの発光種と定義しスペクトル分解を試みた.色素濃度の増加に伴いモノマー成分は連続的な減少し,ダイマー1成分は0.5mol%で極大を示しそれ以上の濃度では減少した.一方ダイマー2成分は1.0mol%以上の高濃度条件下で著しい増加を示した.また最大濃度である2.0mol%の蛍光スペクトルはPyAm結晶粉末のそれとほぼ一致し,ダイマー2成分はPyAm結晶からの発光と帰属した.これらの薄膜表面形態をAFMで観測したところ,色素濃度の増加に依存してドメインサイズは変化した.一方,ダイマー1の発光種はモノマーとダイマー2の中間の状態であると考えられ,部分重なり形種からの発光と帰属した. PVA薄膜中で形成されるこの凝集体は,溶媒の蒸発による結晶成長を高分子媒体の網目構造によって凍結したものに対応すると考えられる.この方法によって,初期色素濃度を変化させることによって色素分子を単分散から会合体,バルク結晶にわたる広範囲の状態を捕捉することができる.分子の存在環境によって鋭敏に変化する蛍光スペクトルをプローブとした結晶成長過程の観測ために有効な手段であると考えられる.
|