Research Abstract |
本研究では,パルスレーザー蒸着(PLD)法におけるターゲット切替法を用いて,(1)超伝導層(超伝導性を維持し超伝導電流を流す層)と(2)ピン導入層(高臨界電流密度を実現する層)の2種類の層を様々に挟み合わせデザインした高温超伝導体YBa_2Cu_3O_y(YBCO)多層膜を作製するサンドイッチ型人工ピン導入法により,磁場中の高臨界電流密度化を図ることを目的としている. 平成21年度では,導入するピン物質にBaZrO_3を用いて,1層あたりの導入量m,および多層膜の層数nを変化(YBCO層の厚さを変化)させて,ピン導入層にあたるYBCO多層膜の最適化を行った.これまでに,BaZrO_3を用いてPLD法でYBCO薄膜を作製すると,薄膜中にBaZrO_3が自己組織化して柱状に析出することが知られている.今回BaZrO_3とYBCOの擬似多層膜化においては,BaZrO_3は粒子状に析出することを明らかにした.柱状(1次元)に析出したBaZrO_3では特定の磁場方向のみピンニング作用するのに対し,BaZrO_3が粒子状(3次元)で析出したことで,全磁場方向で作用するピンニングセンターとして作用していることを臨界電流密度の磁場角度依存性において確認した. また,一定のBaZrO_3の総導入量m×nの下で多層膜を作製した場合,nが大きい,すなわちYBCO層の厚さが薄くなると,急激に磁場中の臨界電流密度が高くなることを確認した.臨界電流密度の磁場角度依存性においては,c軸方向に中心をもつ広範囲にわたるブロードなピークが現れた.これは,YBCO層が薄くなることで各層のBaZrO_3の位置が相関して,厚さ方向に連なるようにBaZrO_3が薄膜内に導入されたためと考えられる.このことより,特定の磁場方向しか作用しないが強いピン力を示す1次元と,1次元ピンに比べると弱いピン力であるが全磁場方向で作用する3次元ピンの中間の特徴をもつようなピンニングセンターの導入がBaZrO_3では可能であることを明らかにした.
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