Research Abstract |
本研究では,現代社会が直面している睡眠不足に対するヒトの不適応(ヒューマンエラーの増加)の問題に焦点を当てる.具体的には,睡眠不足時に低下すると思われる危険認知機能について,ミラーニューロンシステム(MNS)を用いて明らかにする事を目的とした.実験は,全断眠後の危険認知機能について,機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて計測した.突発的な疼痛や危険を伴う行動場面を提示した際に活性化するMNSが,どのように修飾・阻害されているかを,個体差も含めて明らかにした.また,不安,うつ傾向,パーソナリティに関する主観的評価を行い,睡眠不足と個体差の関連を評価するために用いた.痛みを伴う危険な行動場面を観測した際に,充足睡眠時では,断眠時と比較して前帯状皮質や中側頭回が有意に賦活した.一方,断眠時では,充足睡眠時と比較して中心後回,中前頭回,島が有意に賦活した.さらに,断眠時には状態不安の傾向が高いほど,痛みを伴う行動場面に対して島が強く賦活する相関がみられた.本研究結果から睡眠不足によって,危険を伴う行動認知に対して,脳機能上に変化がみられる事が明らかとなった.また,その変化は心理的な指標と強く関連をもつ知見も得られた.今後は,内分泌系のコルチゾールやメラトニンとの関連や,時計遺伝子型との関連など,これまで睡眠不足との関連が示唆されている指標を個体差として総合的に評価した研究が必要であると考えられる.
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