Research Abstract |
Oryza属近縁野生種の中には農業上有用な形質をもつ種が存在する.野生稲O.latifolia Desv.は耐塩性栽培イネの耐塩性機構とは異なる機構を持つことがわかっている.すなわち地上部へのNa^+の吸収量が多いにも関わらず,光合成速度をほとんど低下させない機構を有している.しかし,これまでにO.latifolia以外の野生種の耐塩性の評価をした報告はほとんどない.そこで,本年度は,O.latifolia以外のOryza属近縁野生種,O.officinalis Wall ex Watt, O.australiensis Domin, O.rufipogon Griffおよび比較品種として耐塩性栽培品種Oryza sativa L.cv.Pokkaliの5種を用いて乾物生産および光合成面から耐塩性を評価した. 各器官のcontrol区に対する12dSm^<-1>区のNa^+を含量の割合は,O.latifoliaの葉鞘でcontrol区の30倍,O.officinalis, O.rufipogon, O.australiensisの葉身でそれぞれ28倍,6.8倍,4.3倍であった.このことから野生種では,栽培品種に比べ地上部に多くNa^+を蓄積することが明らかとなった.Control区に対する12dSm^<-1>区の各器官の乾物重の割合は,Pokkali, O.latifolia, O.australiensis5では根で,O.rufipogonでは葉身で値が低く,O.officinalisでは各器官で同程度であり,種によってNaCl処理による影響に違いが認められた.O.latifolia, O.officinalisでは,耐塩性品種のPokkaliよりNa^+を地上部に蓄積し,葉鞘,葉身の乾物重は,PokkaliよりNaClの影響が少なかった.このことから,O.officinalisも耐塩性の高い野生種であることがわかった.塩ストレス下での乾物生産に違いがみられたことから,携帯型光合成測定装置(SPB-H4,ADC社)を用い,最上位完全展開葉の光合成速度について検討した.その結果,塩処理3日目に比べ21日目においてもO.latifolia, O.officinalisの光合成速度はほとんど低下しなかった.また,光合成速度と気孔伝導度の関係では,Pokkali, O.officinalis, O.rufipogonでそれぞれ高い正の相関関係がみられ,この3種のNaCl処理後の光合成速度の変化は,気孔の開閉による影響が高いことが示唆された. 以上のことより,O.officinalisは耐塩性野生種のO.latifoliaと同様,高い耐塩性を有していることが分かった.また,塩ストレス下における光合成速度の低下要因はO.officinalisとO.latifoliaでは異なる可能性が示唆された.
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