2009 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫体表付着花粉の直接遺伝解析による熱帯林一斉開花における送粉システムの解明
Project/Area Number |
21780152
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
近藤 俊明 Hiroshima University, 大学院・国際協力研究科, 特任助教 (40391106)
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Keywords | 一斉開花 / 熱帯雨林 / 送粉共生系 / マイクロサテライト / 森林資源管理 / 花粉一粒 |
Research Abstract |
東南アジア地域の熱帯雨林では、「一斉開花」と呼ばれる不定期に生じる集団開花現象を通して種子の生産および森林の更新が行なわれる。こうした多様な植物種による同調的な開花は膨大な量の送粉者を必要とするが、不定期に生じる開花は数年にわたる非開花期の餌資源の減少によって、花資源を報酬として花粉の運搬を担う送粉者を減少させる。そのため、どのようなシステムによってこの送粉者不足を補い、種子の大量生産を行なっているのか?といった問題は、熱帯林における長い間未解決のままの大きな疑問の一つとなっている。本申請課題は、新たに開発した花粉1粒の直接遺伝解析を用いて、個々の訪花昆虫に付着した花粉の遺伝的組成を評価することで、他家受粉に関わる送粉者や一斉開花時の送粉システムを明らかにすることを目的としたものである。 本年度は、訪花昆虫の約6割を占めるアザミウマの体表に付着した398花粉について、マイクラサテライト遺伝子座8座を用いて解析を行い、熱帯雨林における主要な送粉者と考えられてきたアザミウマの送粉貢献度を評価した。その結果、約9割の花粉が昆虫を採集した樹木個体に由来すること、すなわちアザミウマは発芽率の低い自殖種子の生産にしか貢献しておらず、熱帯林の次世代を担う種子の生産には寄与していないことが明らかとなった。一方で、アザミウマを捕食するカメムシ類も多く採集できたことから、アザミウマは分散能力の高い捕食者を開花個体に誘引することで、間接的に他殖種子の生産に貢献している可能性が示唆された。 来年度以降、カメムシ類をはじめとする他の訪花昆虫種の送粉貢献度を評価するで、熱帯林における植物と昆虫の共進化や植物個体群の維持機構の解明に取り組む予定である。得られる成果は、森林伐採が止まない熱帯林において、「植物-送粉者相互作用」の保全の観点から、持続的な熱帯林管理へ向けた新たな指標を提示するものであると考える。
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