Research Abstract |
インフルエンザは急性の呼吸器感染症であり,特に小児では脳症や多臓器不全を来たして重症化する傾向が高い.一般的にウイルスに感染すると炎症性サイトカイン,NO,O^<2->等が過剰産生され,これらが血管内皮細胞を障害することが報告されている.従って,脳症は脳の血管内皮細胞の透過性亢進による急速な脳の浮腫であると考えられ,また多臓器不全は血管内皮細胞の浮腫による末梢血循環不全が原因であるものと推定されている.しかし血管内皮細胞の障害は程度の差こそあれ感染者に共通するものであり,小児で重症化が起こりやすい説明にはならない.我々は,重症化を左右する感受性因子はATP(アデノシン三リン酸)であることを明らかにした.すなわち,成人と比較して小児ではATPの体内消費が大きく,脂肪酸代謝への依存度も高いために,持続的な高熱に晒されることで脂肪酸代謝酵素(CPT2)が熱失活し,これにより全身性のエネルギー産生障害(ATPの枯渇状態)に陥りやすいことを明らかにした.当該年度はインフルエンザの重症化に関与すると考えられる遺伝子(CPT2, PRSS1, PRSS2等)の欠損マウスを作製して,ウイルスの感染試験を実施した。その結果,CPT2遺伝子の欠損マウスでは野生型マウスと比較して,重症化すること,そして全身組織でATPが著名に低下していることを再確認した.さらに全身組織でのATPの枯渇は脂肪酸代謝酵素の鍵酵素であるCPT2の熱失活の他にも,糖代謝の鍵酵素であるPDHの活性が阻害されている事実を見出した.以上の観点から,インフルエンザの重症化の防止薬(代謝改善薬)として脂質代謝異常改善薬であるBezafibrateあるいは糖代謝改善薬であるLiverall(ジクロロ酢酸製剤)の投薬は安全性かつ治療効果が高いと推定された. 今後は,当該年度に作製した各種遺伝子欠損マウスを用いたウイルス感染試験を実施し,上述の薬剤の治療効果について評価する。
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