2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21820061
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (Start-up)
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Research Institution | Sagami Women's University |
Principal Investigator |
中林 正身 Sagami Women's University, 学芸学部, 講師 (10512915)
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Keywords | D.H.ロレンス / 無意識 / 言語 / 身体論 / 感情的体験 |
Research Abstract |
自分の意思に反して感情に衝き動かされるときの、いわば思考の真空状態といえる状態での心理的状況をどのようにロレンスは言語化しているのかを掘り下げて検証している。人間の内在的な意識の動きを描写することに眼目を置いていた従来の小説の流れとは異なり、ロレンスの場合は、思考から解放されたときの「無意識的体験」の様相を描写しているのである。このような目的のためにロレンスの小説における文体は、ときとして顕著特徴を見せる。それは、例えば身体の震えであったり、瞳孔の動きであったり、身体の器官の変化などを描写するのである。このために「あまりにも肉体に拘泥しすぎる」と前時代的な文学者から酷評されたロレンスであるが、ここにこそロレンスの文学の意義があると考えることができる。 『処女とジプシー』では惹かれあう男女が出会う場面では女主人公の膝の震えの描写が、『太陽』においてはヒロインの「子宮」の動きの変化が感知されるものとして描かれている。「愛のもつれ」では女主人公が婚前交渉を認めないので「子宮」という単語は出てこないが、その代わりに相手の男性を見るときの、そして相手の男性がこのヒロインを見るときの瞳孔の変化が描かれている。まさに「目は口ほどに物を言う」である。そして大事なことは、子宮や瞳孔といった器官はわれわれの意思でどうこうできるものではないのである。そのようなものが変化することを文学作品において言語化することによって、人間はあらゆることをその意思で制御することができると考えるのは間違いであることを、換言すれば、人間の肉体というものは意思とは関係なく自発的に、あるいは本能によって、反応することがあることを明らかにしている。今後は、『逃げた雄鶏』のなかでどのような特徴的な文体が見られるのかを検証していく。
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Research Products
(4 results)