2009 Fiscal Year Annual Research Report
近代初頭の大阪の貸家をめぐる空間・人間・社会的諸関係に関する建築史・都市史研究
Project/Area Number |
21860068
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (Start-up)
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
深田 智恵子 Osaka City University, 都市研究プラザ, 博士研究員 (50514957)
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Keywords | 近代建築史 / 近代住居史 / 大阪 / 貸家経営 / 都市居住システム |
Research Abstract |
本研究は、新出資料である「井上平兵衛家文書」を素材として、近代大阪の都市居住システムを考察することを目的としている。「井上平兵衛家文書」は明治初期より大阪都心部で貸家業を営む一方、区会議員を務めるなど地域行政を担った井上平兵衛家に保存された膨大な文書群である。同文書の資料は近世末期から昭和戦前期まで及びその内容は、(1)土地売買契約書、(2)貸家賃貸契約書、(3)家賃収入帳、(4)借家建築請負契約書、(5)仕様書など貸家経営に関する資料が多数含まれている。さらに、区会議事録衛生組合関係資料、学校運営資料、選挙関係資料など、地域行政の実態を伝える資料も多数含んでいる。本研究で.はこのような「井上平兵衛家文書」の特徴を踏まえ、貸家を多角的に分析し、近代大阪の都市居住システムについて考察しようとするものである。具体的には(1)物理的居住環境(町の空間構造、宅地利用形態、貸家の建築構成)、(2)貸家の経営システム、(3)借家人の生活実態、(4)大工、建築業者と家主との関係、(5)貸家をめぐる人間関係、社会的諸関係、(6)居住環境の近代的変容、の6つをキーワードに居住システムとしての貸家を構造的に解明する.研究は(1)基礎調査と(2)分析・考察に大きく分かれる。このうち、21年度(21年12月~22年3月)は分析・考察の基盤データを構築するための基礎調査(未整理資料の整理・調査・目録化)を集中的に実施した。未整理資料35箱のうち8箱、点数にして4,387点を新規に目録化し、データ入力を終えた。また、資料の劣化の激しいもの、貸家の間取図など特に重要と思われる150点余について写真撮影を行い資料内容の保存を図った。本研究により、これまで十分に明らかにされていない明治前期の大阪の都市居住の実態が解明されること、また、「井上平兵衛家文書」の整理が進み、住居史、建築史の分野だけでなく、経済史や歴史学の分野にとっても共有の研究資料が構築されることは意義深く、重要なことといえる。
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