2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21902011
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
富原 カンナ 鹿児島大学, 非常勤講師
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Keywords | 大伴旅人 / 仏教受容 / 「讃酒歌」 |
Research Abstract |
本研究では、上代日本における仏教の享受の状況を考察し、大伴旅人の仏教理解の考証を踏まえた作品研究を試みた。特に仏教の影響が色濃く窺える作「讃酒歌」を中心に取り上げ、旅人の受容した仏教の状況を考慮し、仏教の素養がありながら宗教的な救済が得られなかった問題を中心に考察を進めた。 旅人の仏教を考えるにあたって、まず旅人と親交が深く、仏教的著述の多い山上憶良の仏教受容の考察を行った。従来憶良における『大般涅槃経』の影響が指摘されているが、憶良の作品中の表現が経典そのものに基づくものではないこと、また彼の「泥〓(涅槃)之苦」という表現から、涅槃の意義を説いた『大般涅槃経』ではなく、別の資料を典拠とする可能性を示唆した。こうした資料的な制約等もあり、八世紀の一般知識人における仏教の理解は、必ずしも個人の救済の面にまで至っていないことが考えられる。仏教理解についての個人差はあるにしても、旅人の「讃酒歌」で仏教的用語が挙げられつつも仏教の救済が歌われていない点についても、当時の仏教受容のかかる問題が考慮されよう。また作品中の「来む世には虫に鳥にも我はなりなむ」という歌について、旅人が仏教の輪廻思想を否定したものとの指摘もあるが、中国では仏教の普及にあたって、死の恐怖からの救済として輪廻応報の思想が受容されたことを考えると、本来の輪廻観よりもなお明るい印象を以て受け入れられたことも考えられ、他の歌についても中国の仏教観を踏まえた考察が求められる。更に八世紀の旅人がとりわけ竹林の七賢人に傾倒した問題については、仏教によって十分な人生上の解答を見出し得ない自身の状況から、仏教の普及する以前の魏晋の時代に生き、自己の解放を求め飲酒によって一つの境地に到達した中国文人に共鳴したことが考えられよう。
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Research Products
(2 results)