Research Abstract |
本研究では,様々な喪失体験を抱え学校生活に苦戦する児童生徒が少なくない中で,そのような児童生徒に対して,学校において教師が行うことが可能かつ有効な支援の在り方を検討するための基礎的な情報を提示していきたいと考える。そのため,児童生徒の悲嘆反応に対する教師の認知傾向や対応の傾向から,見落とされやすいポイントや対応されにくく支援の手が届きにくい状況の特定を行い,さらに教師の対応の困難感や対応の実態について明らかにすることを目的とする。 調査方法は,質問紙調査法。調査1:小中高等学校教師105名,2009年7月~8月。調査2:小中高等学校教師400名,2009年10月~11月。郵送により配布し,2~3週間後に郵送により回収。 調査内容は,調査1:(1)児童生徒の悲嘆反応について,学校生活の中でどのような姿や行動が見られると考えるか自由記述。(2)喪失体験をした児童生徒への対応について,教師のこれまでの経験についてとまどいの有無や対応への困難感について4件法。調査2:(3)「学校生活における児童生徒の喪失反応」(20項4件法)を作成,喪失対象の違いごとに「次のような喪失体験を児童生徒がもし体験したとしたら」という条件のもとで回答。教師の喪失体験についてその内容と自身にとっての重要度。(4)喪失体験をした子どもに対する教師の対応の具体的な内容について自由記述。 結果と考察,自由記述による児童生徒の悲嘆反応についてKJ法により分類し,これをもとに「学校生活における児童生徒の喪失反応」(20項4件法)を作成。因子分析の結果,「無気力的反応」,「反社会的行動」,「情緒的・身体的反応」,「前向き」の4つの下位尺度が見いだされた。喪失対象の違いによる認知の偏りを検討した結果,全ての対象で「情緒的・身体的反応」が最も認知され易く,「反社会的行動」は「家族との離別」では認知され易いもののその他の対象においては最も認知されにくいことが明らかとなった。教師の喪失体験との関連を検討した結果,親や友人との死別経験無しの教師が「情緒的・身体的反応」が生じ易いと捉え,親しい人との離別や環境の喪失を重要な経験として認識していた教師は「反社会的行動」が生じ易いと捉えていた。教師の経験による対応の困難感については,親や友人の死別,目標の喪失への対応で戸惑いや不安を比較的強く感じており,祖父母やペットの死別で感じていなかった。教師の対応では,人との死別で,多くの教師が「よく話を聞く」などと回答しており支援的であったが,離別では「よくあること強く生きるよう話す」,「大変だがきちんと生きていくように指導する。」など指導的な回答も見られた。ペットの死別では「ペットのことまで考えて対応していられない。」など教師の側の余裕のなさが垣間見られる回答もあった。 人は,人生の中で様々な喪失を体験するが,そこにある悲嘆やストレスの大きさ,深さは人それぞれであり,喪失対象の違いやエピソードの大きさによって規定されるものではない。それは,児童生徒も同様である。これらを十分に認識する必要があることを示唆する結果であり,今後,教師への悲嘆教育の必要性を示すものとなった。
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