Research Abstract |
【研究目的】 本研究は偽造犯罪の防止のために,インクジェット方式のプリンタの新しい機種識別システムの開発を目的とした.同方式のプリンタは低価格かつ高画質の画像を印刷できるため,偽造に頻繁に使用されている.機種識別の指標は,紙送りのための歯車の痕跡(拍車痕)を用いる.紙搬送のための歯車は山と山の間隔が1mm前後と微少であり,また,拍車痕自体の大きさは数十ミクロン単位を成す.従来法では測定顕微鏡により拍車痕を検出し,その間隔を測定した.しかし,従来法の短所は,検査者の熟練した技量によるところの寄与が大きく,検査時間がかかる点であった. 【研究方法】 提案手法は微細な凹凸である拍車痕を,陰影として検出しようと試みる方法である。しかし,これまでの実験により通常の白色光を用いた照明では,紙に印刷した画像を形成する色材のドットと拍車痕の識別が困難であった.そこで,インクジェットプリンタに使用するインクは染料系が多いことを利用して近赤外線LEDを光源として使用し,インクを透過することにより色材の影響を排除した. 【研究成果】 本手法は拍車痕の状態により,二つの段階から構成される.一つ目は拍車痕が鮮明な場合,近赤外線を光源として使用できるマルチバンドスキャナにより撮影する段階である.スキャナを利用した場合,近赤外線は白色光よりも波長が長いため,レンズを透る際に白色光との屈折率の差により焦点ずれが生じ,陰影画像が不鮮明となる.よって,ぼけを生じさせた点像分布関数を対数振幅スペクトルのケプストラムのピーク位置から推定し,ぼけを補正した.二つ目は,拍車痕が不鮮明な場合,スキャナの光学系では分解能が不足し拍車痕の検出ができない場合がある.その際は白色光を光源として測定顕微鏡により検出してきた.しかし,スキャナでの検出と同様に色材のドットと拍車痕の陰影の識別が困難であった.よって,近赤外線LEDによる照明により拍車痕による陰影のみを可視化し検出を容易にした。得られた結果は国内外の学会に発表し論文とした.
|