2021 Fiscal Year Annual Research Report
戦後国際政治思想としての日本的現実主義の変容:冷戦後期を中心に
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21F21010
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
宮岡 勲 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (90335399)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ZHANG FAN 慶應義塾大学, 法学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 日本的現実主義 / リアリズム / 高坂正堯 / 永井陽之助 / 猪木正道 / 岡崎久彦 / 防衛論争 / 総合安全保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の学界では、「非西洋型国際関係論」や「グローバル国際関係学」の可能性に関する議論が高まり、日本の国際政治学の再考は重要な課題となった。とりわけ、戦後日本の「現実主義」(以下は「日本的現実主義」)、すなわち高坂正堯、永井陽之助をはじめとする「現実主義者」の国際政治思想が注目されている。しかし、既存の研究は主に日中国交正常化以前の時期に焦点を当てて、冷戦後期(1972-89年)における「日本的現実主義」の展開があまり検討されていない。これに対して、本研究は時代背景、問題意識、主要内容、特徴、位置づけを含め、冷戦後期の「日本的現実主義」を包括的に検討することを試みる。これによって、戦後日本の国際政治学と国際政治思想、「非西洋型国際関係論」や「グローバル国際関係学」について新たな知見を提示することを目指している。 令和3年度は、主に冷戦後期の「日本的現実主義」に関する一次資料を収集・分析した。高坂、永井、猪木正道、衛藤瀋吉、神谷不二ら「政治的リアリスト」および岡崎久彦、佐藤誠三郎、中川八洋ら「軍事的リアリスト」の主張を丹念に精査した。その際に、「日本的現実主義」の「論壇性」を念頭に、『中央公論』『世界』『文藝春秋』『諸君』『自由』『正論』など論壇雑誌に載せた関連論考に注目した。 以上を踏まえ、冷戦後期の防衛論争を中心に、同時期の「日本的現実主義」に関する初歩的な分析を試みた。とりわけ、当時の「日本的現実主義」が「総合安全保障」対「伝統的安全保障」を軸に変容したことを解明した点で先行研究と一線を画した。研究成果として、国際日本文化研究センター『日本研究』と中国社会科学院『日本学刊』で二つの学術論文を公表した。加えて、中国復旦大学主催の国際会議「第二回日中関係若手研究者フォーラム」で研究報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、冷戦後期の「日本的現実主義」に関する一次資料を収集した上で、高坂正堯、永井陽之助、猪木正道、岡崎久彦、佐藤誠三郎、中川八洋ら代表的な論者の主張を分析した。さらに、冷戦後期の防衛論争を中心に、同時期の「日本的現実主義」に関する初歩的な検討を試みた。その成果として、二つの査読論文を公表し、国際会議で研究報告を行った。 以上の理由より、本研究が「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、冷戦後期の防衛論争を中心に、同時期の「日本的現実主義」が「総合安全保障」対「伝統的安全保障」を軸にしたことを明らかにした。本年度は、「安全保障」に加え、「経済相互依存」をも視野に入れて、冷戦後期の「日本的現実主義」の全体像を描き出すことを試みる。 周知の通り、冷戦後期において、「経済相互依存」が重要な課題となった。学界で国際政治経済学とネオ・リベラリズムが台頭した一方で、国際政治の現実として石油危機や日米経済摩擦が起こった。これを背景に、「日本的現実主義」も「経済相互依存」に大きな関心を持っていた。 以上を踏まえ、本年度は既存の研究で検討されてこなかった「日本的現実主義」の相互依存論を検討する。その際に、非軍事力の役割を強調する高坂正堯ら「政治的リアリスト」に焦点を当てる。とりわけ、冷戦後期において、高坂は軍事力よりも経済力や世論を重視するという従来のパワー観に基づき、「政治的リアリスト」の議論の体系化を成し遂げた。そのため、一次資料を精査した上で「政治的リアリスト」の相互依存論を検討することは不可欠であり、本年度の研究の重点でもある。 そして、上記の研究で得られた知見をまとめ、『国際政治』や『年報政治学』、『法学研究』に投稿し、日本国際政治学会や日本政治学会で研究報告を行う予定である。
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Research Products
(3 results)