2021 Fiscal Year Annual Research Report
A unified understanding of r-process nucleosynthesis from gravitational wave and kilonova observations
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21H01087
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
西村 信哉 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70587625)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
湊 太志 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (00554065)
LIANG HAOZHAO 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50729225)
今井 伸明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80373273)
西村 俊二 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 先任研究員 (90272137)
有友 嘉浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (90573147)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 宇宙核物理 / 元素合成 / rプロセス / 高密度天体 / 高エネルギー天体物理 / 中性子過剰核 / 核分裂 / 核反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、宇宙における重元素生成のうち、金やプラチナ、ウラン等のアクチノイドの起源であるrプロセスを対象とする。rプロセスは、連星中性子星の合体や超新星などの爆発的な天体環境で起こると考えられる。rプロセス元素合成の起こる環境では、高い中性子数密度により中性子捕獲が爆発的に進み、大量の中性子過剰核が形成される。それらの中性子過剰核の多くは実験で確認されておらず、現在行われているrプロセスの計算では不定性の大きい理論予測値に基づいている。本研究計画では、中性子過剰核の反応・崩壊率の理論計算をアップデートし、rプロセス計算に適用し影響を調べる。さらに、原子核の不定性を考慮したモンテカルロ元素合成計算を用いて、不定性の定量的な評価とともに重要な反応率を同定する。 本年度は、主として中性子過剰核に関する崩壊の分岐比の計算と核分裂の動力学計算において進展があった。中性子過剰核がベータ崩壊することで、新たな核種の励起状態が得られるが、その後、ガンマ線を放出し脱励起するか中性子を出す、あるいは、重い核では核分裂する。これらの違いは原子核の構造によるが、この分岐比はrプロセス元素合成への影響が大きい。我々は、最新の理論計算により核図表の広い範囲にわたって、この値を計算した。ウランやより重い超重元素などは核分裂を引き起こす。分裂は確率過程であり、実際にどのような分布になるかは動力学計算を用いて評価する必要がある。我々は中性子過剰核でも未到の領域を対象に核分裂計算を行い、核分裂分布を計算した。 また、我々は、以上の反応・崩壊率のアップデートに基づいて、モンテカルロ元素合成計算により諸量の影響を調べた。同じ計算の枠組みで陽子過剰核での元素合成についても着目し、中性子過剰核で今のところ達成できない核反応の実験について最新の反応率を評価し、元素合成への影響を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、まず中性子過剰核の原子核理論の計算に進展があった。中性子過剰不安定核は、ベータ崩壊を起こした後に励起状態になり、中性子放出や、重い核の場合は核分裂をを引き起こす。中性子放出に関しては、一部の原子核に関して実験による測定が行われているが、rプロセスへの応用では、依然として未到領域が広い。我々は、実験による反応率のアップデートをしつつ、最新のQRPA計算に基づいて、核図上全体にわたって崩壊の分岐比の計算を行った。この結果は、今後の本計画での元素合成計算への応用が期待できる。ベータ崩壊の半減期に関しても、同様な枠組みに基づき、機械学習の手法により微視的な物理パラメータを調整したモデル計算に繋げている。 また、核分裂についても中性子過剰核での動力学計算を進めた。ウランからフェルミウムまでの中性子過剰同位体数100核種について核分裂分布を計算した。限られた実験値や理論的の示唆から、原子核が中性子過剰になると核分裂が非対称から対称に遷移すると期待されている。実際に我々の計算で、ウランでは質量数が250を超える遷移がみられた。ただし、物理パラメタの不定性も大きく、今後の詳細な解析や計算のアップデートも必要である。また、試験的な元素合成計算により、この遷移領域はrプロセスにおいても重要であることを確認した。 元素合成に関しては、上記に加え、特に最近の理研RIBF実験の進捗を踏まえた反応率の評価を行った。依然として理論の不定性は大きく、計算結果にもその影響が支配的である。これまで実験で測定された半減期は、対象核種の範囲は限定的ではあるが、元素合成への影響が大きいことが確認できる。中性子過剰核に比べるとよく実験が進んでいる陽子過剰核側についても、最近の反応率実験の成果を天体での元素合成で評価した。こちらは、爆発天体現象でも陽子過剰核を生成する元素合成に着目した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き中性子過剰核の理論反応・崩壊率データのアップデートとrプロセス元素合成への影響の定量的評価を軸として研究を進める。 まず、rプロセスによる元素存在比に強く影響を及ぼす中性子過剰核のベータ崩壊半減期の理論計算をアップデートする。最新の理論の枠組みを用いつつ、機械学習により微視的な物理パラメータを決定し、より予測能力が高い計算を実行する。 また、核分裂についても対象核種の領域を広げ、rプロセスが進行するウランやより重い元素の数千核種を対象とする。この研究において、計算対象が莫大に増えるので計算の効率化が必要である。我々の動力学計算は、アルゴリズムの段階で並列計算との相性がいいので、今後、計算コードの改良をおこない広い核種で計算を行う。 核分裂に関しては、加えて、計算の対象を大きく広げるとともに、今後は計算に考慮する物理過程の詳細化を行う。特に、中性子過剰核では核分裂に伴う中性子放出の影響が大きく、rプロセスへの影響も大きい。核分裂後の中性子放出は、動力学計算の適用外であるため中性子捕獲反応の計算で用いる統計模型のコードに接続する。分裂後の中性子放出は、中性子捕獲の逆であり、統計模型の計算で放出数や運動エネルギー分布など性質を記述できる。核分裂過程の詳細を記述する研究においては、まずは、ウランなど実験値が報告されている核分裂に関して計算し、物理パラメタの選択やモデルの妥当性などを検証する。 元素合成計算に関しては、新たに核分裂を考慮した不定性の網羅的計算、モンテカルロ元素合成の方法のアップデートを行う。核分裂や、ベータ崩壊や中性子放出など少数の核種・粒子の間の変換ではなく、確率的に1つの原子核が数多くの原子核に分裂するため、反応のネットワークの形状が複雑である。我々の元素合成コードに合わせて、核分裂データベースをうまく取り込む方法を確立したい。
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Research Products
(13 results)