2022 Fiscal Year Annual Research Report
世代を超えて受け継がれる、代謝-エピゲノムクロストークの解明
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21H02383
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
前澤 創 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 准教授 (90548174)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 陽平 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (00588056)
大我 政敏 麻布大学, 獣医学部, 講師 (40644886)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 代謝 / エピジェネティクス / 精子形成 / 生殖細胞 / 発生 / 分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
配偶子形成期に見られる大規模かつ複雑な遺伝子発現変化は、その分化過程で構築される生殖細胞特異的なエピゲノム変化によってもたらされる。この時期に形成されるエピゲノムは、分化の進行のみならず、次世代の発生にも寄与する。栄養環境などの外部環境要因による細胞内代謝変化は、エピジェネティクス因子の機能や活性に影響を与え、エピジェネティックな変化として記憶される。配偶子形成期において、分化の進行に伴う代謝系の変動や、栄養状態によって変化するエピゲノムの継世代影響が示唆されているが、どのような代謝物がどのようにして生殖細胞特異的に形成されるエピゲノムへ影響を与えているかは不明である。本研究では、マウス精子形成期をモデルに、配偶子形成及び次世代の発生を制御する「代謝-エピゲノムクロストーク」の解明を目指した。 これまでに、マウス精子形成期の代表的な分化段階の生殖細胞を用いたメタボローム相席を実施し、分化進行に伴って変化する代謝系を明らかにした。中でもDNAメチル化やヒストンメチル化修飾の際のメチル基供与体であるSAMの合成に機能するSer-Gly-one-carbon metabolism(SGOC代謝)が活性化する分化段階を同定した。本年度は、精子形成期におけるSGOC代謝の機能を明らかにするために、SGOC代謝の阻害試験をin vivoおよび生体外精巣培養系にて実施した。免疫組織染色法を用いて、各分化段階におけるエピジェネティックな変化を検討した結果、H3K4me1などのヒストン修飾に異常が生じることが示された。さらに、これらの異常がSAMの投与によるレスキュー試験により解消されたことから、生殖細胞でみられたエピゲノム異常は、SGOC代謝の阻害によるSAMの存在量の低下によって生じていたことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度に、マウス精子形成期の代表的な分化段階の生殖細胞を分取し、メタボローム解析により、分化進行やエピゲノム形成に寄与する代謝系の包括的な特定を試みた。その結果、分化進行に伴ってエネルギー代謝系の変換やアミノ酸やヌクレオチド代謝の変化が生じていた。さらに、DNAメチル化やヒストンメチル化修飾の際のメチル基供与体であるSAMの合成に機能するSer-Gly-one-carbon metabolism(SGOC代謝)が活性化する分化段階を同定した。2022年度は、精子形成期におけるSGOC代謝の機能を明らかにするために、SGOC代謝の阻害試験をin vivoおよび生体外精巣培養系にて実施した。免疫組織染色法を用いて、各分化段階におけるエピジェネティックな変化を検討した結果、H3K4me1などのヒストン修飾に異常が生じることが示された。さらに、これらの異常がSAMの投与によるレスキュー試験により解消されたことから、生殖細胞でみられたエピゲノム異常は、SGOC代謝の阻害によるSAMの存在量の低下によって生じていたことが示唆された。 一方、SAMの合成に必要な栄養成分である葉酸の欠乏環境下で飼育したマウスを用意し、精子形成期の生殖細胞のエピゲノムへの影響を、免疫組織染色法を用いて解析した。その結果、葉酸欠乏によりいくつか分化段階においてエピゲノム異常が生じていることが明らかになった。先行研究において葉酸欠乏環境下では精子中のエピゲノム異常が生じていることが示されていたが、本研究により、精子形成期の分化進行の過程で生じたエピゲノム異常が精子中に残存することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに、代謝系や栄養環境の撹乱により精子形成期の生殖細胞のエピゲノムに異常が生じることが示された。今後、エピゲノム異常が生じた生殖細胞を分取し、CUT&Tag法やEM-seq法による次世代シーケンス解析により、ヒストン修飾やDNAメチル化等のエピゲノム異常が生じたゲノム領域を同定する。また、同定されたエピゲノム異常が、メチル基供与体の存在量の低下によって生じるか否かを明らかにするために、エピゲノム修飾酵素や代謝酵素の発現量をRNA-seq法やWB法を用いて解析する。さらに、精子形成期で生じたエピゲノム異常のうち、精子まで維持されるエピゲノムや、次世代の発生に影響を与えるエピゲノムを次世代シーケンス解析により明らかにする。
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Research Products
(12 results)