2021 Fiscal Year Annual Research Report
Why can microorganisms withstand drying? Elucidation of drying adaptation mechanism by glass transition of microbial cells
Project/Area Number |
21H04710
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小関 成樹 北海道大学, 農学研究院, 教授 (70414498)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川井 清司 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (00454140)
中川 洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (20379598)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 乾燥耐性 / 水分活性 / 熱分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
乾燥食品(環境)において微生物が長期間にわたり生残するための乾燥ストレス耐性を獲得するメカニズムを,微生物細胞のガラス転移現象に焦点を絞り,その物理的状態の変化の観点から明らかにする。食中毒細菌の制御から有用細菌の安定保存までを可能とする科学的な基盤を構築することを目的とする。具体的には以下の3つの研究課題について取り組む。 初年度は、研究対象を従来の細菌だけから,真菌類(カビ,酵母)や細菌芽胞に拡大して,ガラス転移温度(Tg)と水分活性(aw)との関係を昇温レオロジー測定によって明らかにした。また,得られたTgと保存中の生残に及ぼす影響を明らかにする。具体的には乾燥食品の食中毒原因として主要なサルモネラ属菌およびその近縁種の代替細菌としてCronobacter sakazakii など様々な食品の腐敗および変敗の原因となる細菌芽胞について検討した。 また、乾燥耐性が高く,食品産業において重要な細菌 Cronobacter sakazakiiと酵母を用いて、様々なawに調節した試料の分子ダイナミクス(mean square displacement, MSD)を幅広い温度範囲で測定した。また,研究室既設の温度変調FT-IRを用い,各試料の分子間相互作用変化をガラス転移と水和レベルの観点から検討した。さらに、従来よりも高感度かつ広い温度範囲で微生物のガラス転移を検出可能な方法として,直列型昇温レオロジー測定を構築した。モデル試料としてアルブミンを用い,装置の効果を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般的な通風乾燥と真空凍結乾燥によって調製した乾燥細菌細胞のTgと保存安定性を検討した。乳児用調製粉乳を汚染するC. sakazakii は乾燥耐性が高く,長期間にわたり乾燥環境下で生残することが報告されていることから,C. sakazakiiのTgとawの関係をみた結果,乾燥方法の違いによって大きな違いが認められた。通風乾燥によって調製された乾燥C. sakazakiiはawの低下に伴いTgが上昇する傾向が認められたのに対して,真空凍結乾燥によって調製されたC. sakazakiiのTgはawの高低によらず一定の傾向を示さなかった。また,保存安定性にも大きな差が認められ,通風乾燥したC. sakazakiiは室温(25℃)以下では安定して生存したが,真空凍結乾燥によって調製したC. sakazakiiは25℃以下の保存で急速な死滅が認められた。 乾燥方法の違いとawレベルの違いによるTgの差を包括的に解釈するためにはawの関数として扱われるTgと環境温度(T)との関係,すなわちT - Tg 値が正(液体的)か負(固体的)かによって表される分子ダイナミクスによって支配されることを示唆している。この観点から,乾燥C. sakazakiiの死滅を評価した結果が図4であり,暴露される保存温度(Tstorage)とTgとの差が -20よりも小さい場合には安定して生存するが,Tstrorage - Tgが-20よりも大きい場合には速やかに死滅することが示されている。以上のように,乾燥菌体のTgと保存温度との関係性から,対象細菌の乾燥耐性を推測できる可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画通りに、進んでおり、2年目には以下の計画の項目について検討する。 1年目の成果を通じて,Tg応答に優れた微生物と逆に劣った微生物を中心に,乾燥過程の違い(通風,減圧,真空凍結)がTgに及ぼす影響を明らかにする。なかでも乾燥方法によってTg応答性および生残性が変化するのかに着目する。また,乾燥方法によるTg変化は適合溶質(ガラスシールド)によるものと考えているため,乾燥細胞内の構成成分の変化を探索するために,メタボローム解析(委託)により,網羅的に代謝産物を比較検討する。また、C. sakazakiiと酵母を試料として用い,乾燥方法がMSDおよび赤外スペクトルに及ぼす影響を明らかにする。
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