2021 Fiscal Year Annual Research Report
Ultrafast non-adiabatic dynamics in chemical reactions
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21H04970
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 俊法 京都大学, 理学研究科, 教授 (10192618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 喜一 北海道医療大学, 医療技術学部, 准教授 (10415200)
THUERMER STEPHAN 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40722161)
山本 遥一 京都大学, 理学研究科, 助教 (70837319)
足立 俊輔 京都大学, 理学研究科, 准教授 (90431874)
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Project Period (FY) |
2021-05-18 – 2026-03-31
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Keywords | 非断熱遷移 / 化学反応 / 超高速分光 / 光電子分光 / 核酸塩基 / フェムト秒 / 電子緩和 / 光異性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然がなぜ核酸塩基(NB)を遺伝情報の記録に選択したかという課題について、NBが基底電子状態(S0)への高速な電子緩和により光損傷を免れるためという仮説を検証することを目的に研究を行った。NBが1pp*状態から(光化学反応を起こす可能性のある)1np*状態や3pp*状態を生成する量子収率(QY)が本当に低いのか。本研究で、ウラシル(Ura)、チミン(Thy)の気相孤立状態を調べたところ、1pp*状態は17fs(Ura)や39fs(Thy)という短寿命で電子緩和するが、高い量子収率(QY;0.45(Ura),1.0(Thy))で1np*状態に緩和することが確認された。しかし、水溶液中のNBでは1np*状態のQYは0.07以下(Ura)ならびに0.2以下(Thy)と低く、S0への緩和が主であった(nucleoside, nucleotideでも同様)。よって水溶液中ではNBの光安定性が存在すると確認された。またThyとUraの分子構造はメチル基の有無しか異ならないにもかかわらず、UraのS0への内部転換が遙かに速いことが分かった。その原因は、これらの分子の1pp*状態からS0への電子緩和がC5の置換基が面外に突き出た構造を経ることにある。C5にメチル基が入ると嵩高いメチル基の面外運動が水和殻との立体障害で抑制されるため、Thyの1pp*状態の寿命が長くなり、1np*状態のQYも高くなる。他の特筆すべき成果としては、cis-Stilbene(St)の光化学反応があげられる。cis-Stはcis-trans光異性化の代名詞として良く知られるが、本研究において気相のcis-Stについて1pp*状態励起による実験を行ったところ、閉環化合物の光電子信号を明確に観測し、さらに高精度量子化学計算を行った結果、cis-trans光異性化よりも電子閉環反応の収率の方が高いことを発見した
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
核酸塩基の光化学、電子移動、溶媒和電子生成、界面化学など、いずれも従来注目されてきたベンチマーク系に新奇な実験手法を適用することによって新たな描像の抽出に成功した。実験技術面では、既に高繰り返し周波数のEUV光源の導入によって、液体の光電子分光の効率とデータの質は他の追随を許さないレベルに達しており、他方では既存の1kHzの極端紫外光源を用いた気相実験でも質の高い研究成果を着実に発表した。その結果、化学分野のtop journalである米国化学会のJACS, JPC-A, JPC-B, JPC Letters, 英国化学会のChemical Science等にtop 5%の評価で論文発表されている。本プロジェクトで採用した特定助教が、日本化学会のPCCP prize, 分子科学討論会の優秀講演賞等を受賞するなど、人材育成の面でも順調に進んでいる。一方、特別推進研究の基幹装置の開発については、コロナ禍・ウクライナ戦争のため世界的な部品不足のため物品供給が遅延する中で、研究開発のスケジュールを保って進めることができた。パルス幅10fsのDUV/EUV光源は、波長(DUV:267-133nm, XUV:57-36 nm)・強度(DUV:>1uJ, XUV:>1pJ)・時間幅(10 fs)の3点で世界に類の無い装置である。この基幹装置の開発に必要な35fsのチタンサファイアレーザーが納入された令和4年の1月以降、実質研究期間が約1年強という短期間の中で、種々の技術的課題の解決も含めて順調なペースで開発を進めることができた。時間分解赤外吸収分光装置についても、令和4年度9月に分光器が、令和5年1月に赤外差周波発生器が納入されたが、その後の迅速な開発研究により、令和4年度内に装置を完成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)既に研究着手したエチレン・重エチレンや誘導体の光異性化(内部転換)および基底電子状態における分解反応をより詳細に研究する。気相反応については、反応生成物の質量分析・反応生成物の解離放出角度分布なども新たに計測する。そのため、計画にはなかった2次元イメージング装置を導入し、21 eV以上のEUV光子エネルギーでイメージング法を行うことによって、非断熱遷移の研究を一層発展させる。(2)真空中に導入された試料溶液を再循環させる装置を開発・導入し、生体試料や希少試料の実験を可能にする。高繰り返しレーザーの出力パルス時間幅をmulti-plate法で30fs以下に圧縮して光子密度を上げ、繰り返し周波数100kHz以上でEUVが発生できるようにする。マイクロジェットを液膜に変更し信号強度を格段に増大する。(3)Epigeneticsで重要なcytosineと5-methylcytosineの光励起ダイナミクスを調べる。NBの溶媒を重水、アルコール、アセトニトリルに変更し溶媒効果を明らかにする。(4)既に着手した気相cis-Stilbeneのcis-trans光異性化・電子閉環反応分岐比に関して、紫外励起波長依存性(300-260 nm)を調べ、ポテンシャルの円錐交差点のエネルギーを推定する。同様に極性・無極性溶媒中でのcis-Stilbeneのcis-trans光異性化・電子閉環反応を光電子分光で観測する。(5)気液界面に濃縮されるPhenolの反応をEUV-TRPESにより追跡し、バルク液体中での反応と比較する。(6)核酸塩基の緩和過程において、ピコ秒以上で起こる1np*から1pp*状態に至る比較的遅い過程について、時間分解振動スペクトルを測定し、量子化学計算を援用した振動構造解析によって長寿命暗状態の形成過程を明らかにする。
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Research Products
(27 results)