2021 Fiscal Year Annual Research Report
1対1の水素結合を鍵としたカルボラン類の発光機構制御と三色同時発光性分子への展開
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21J14940
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
越智 純毅 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | o-カルボラン / エキシマー発光 / 水素結合 / 二重発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
・メチレン基をリンカーに有するo-カルボラン-アクリジン連結系の合成と評価 研究員は昨年度以前の研究にて、o-カルボランとアクリジンを三重結合リンカーで連結した分子が水素結合に基づくダイマー構造を形成し、固体状態で高効率なエキシマー発光を示すことを明らかにしている。本研究では新たなリンカーとしてメチレン基を採用し、物性の評価を行った。その結果、先行研究と同様のダイマー形成に加え、極めて報告例の少ない「二重エキシマー発光」が発現することを見出した。さらに、o-カルボランのホウ素上を修飾することで結晶中におけるπ-π相互作用を調節すると、発光色が鋭敏に変化することを実証した。以上、o-カルボランの水素結合を活用した分子設計により、固体エキシマー発光について系統的な調査を行うことができた。
・分子内水素結合の導入によるo-カルボランの二重発光特性の制御 o-カルボランの炭素上に芳香環を置換した分子群は、o-カルボランのC-C結合と芳香環がなす二面角により、二種類の異なる発光過程を経ることが知られている。本研究では、分子内水素結合部位を導入することで二面角を設計し、二種類の発光を制御することを試みた。合成した分子の水素結合エネルギーと二重発光性には対応関係があり、適切な強さの水素結合部位を導入することで二種の発光過程が共存する分子を得ることができた。さらに、高温領域では水素結合の運動性が高まるために、外部温度に応答して発光色が変化することも確かめられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、研究員が独自に見出した「o-カルボランの水素結合」を用いた戦略的分子設計に基づき、部分励起(LE)発光、電荷移動(CT)発光、エキシマー発光という三種の発光機構を制御することを提案した。まずエキシマー発光については、修士課程における研究で分子設計指針や発光メカニズムについて多くの知見を得ていたが、昨年度の研究において合成した類似分子において新たに「二重エキシマー発光」という極めて珍しい発光挙動を得た。これは予想外の結果であり評価には時間を要したが、o-カルボランの水素結合を利用することで初めて設計可能となった物性であることが明らかとなり、その有用性を示す顕著な例となった。また、評価の過程においてo-カルボランのホウ素部位を化学修飾するという当初予定していなかった手法を確立することに成功し、同様の合成手法は今後の研究においても役立つと期待できる。またLE発光・CT発光については着手時点で想定していた通りの結果が得られ、分子内水素結合の導入によりLE/CT比を制御可能であると実証した。特に、導入する発光団として当初はフェナントレンを予定していたが、それに加えてジベンゾフランを用いた合成にも成功したことで、水素結合のON/OFFだけでなく水素結合エネルギーと発光特性の相関についても知見を得ることができた。過去のo-カルボラン系ではCT発光が支配的でありLE発光を示す例は稀であったことから、これら2種の発光を設計する指針を示したことは極めて意義深い。 以上のように、当初の計画を概ね達成したことに加え、予期せぬ物性や分子設計指針を見出せたことから、当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、o-カルボランが示す三種の発光機構について知見を深める。まずエキシマー発光については、これまで合成した5種の分子の比較より、分子間水素結合が強いほど高い発光効率や鋭敏な温度依存性を示すという傾向を得ている。これを踏まえ、o-カルボラン上のホウ素上へ電子求引性のフッ素原子を導入することで水素結合を強めれば、より高機能な材料の創出が可能になると期待できる。LE発光・CT発光については、LE状態からCT状態に移行する際のエネルギー障壁について実験・計算の両面からより詳細な検討を行う。これらの知見を融合することで、LE発光・CT発光・エキシマー発光から成る三色発光性分子を設計し、微細な環境変化に応答する分子系の構築を目指す。また、異種二分子から生じるエキシプレックス発光や、分子間ではなく分子内でのエキシマー発光を導入することで、より拡張性の高い分子設計指針の確立にも取り組む。
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Research Products
(11 results)