2021 Fiscal Year Annual Research Report
世紀転換期ドイツにおける男性同性愛と友情の境界:オイレンブルク事件をめぐる考察
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21J14969
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瑞秀 昭葉 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | オイレンブルク事件 / ジェンダー・セクシュアリティ研究 / ドイツ近現代史 / 同性愛 / 友情 / ジェンダー史 / マグヌス・ヒルシュフェルト / アドルフ・ブラント |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は次の二点に集約される。 (1)19世期末から20世紀前半における同性愛に関する科学的な知が、専門家集団内でどのように共有されていたのかを分析した。とりわけ、ユダヤ人性科学者マグヌス・ヒルシュフェルトの1910年代の思想と活動を重点的に分析し、ヴィルヘルム帝政期最大の同性愛スキャンダルとして知られるオイレンブルク事件(1906-1909)の前後での思想と活動の移り変わりを検討した。調査の結果、ヒルシュフェルトは1910年以降、同性愛以外の性的少数者ー異性装者、両性愛者などーの理解に際しても、「完全な男性」と「完全な女性」の間に、「第三の性」=「中間性」が存在するという「性的中間段階説」と呼ばれる理論を用いて考察していたことが明らかになった。1910年には、『トランスヴェスタイト』を上梓し、当時混同されていた“トランスヴェスタイト” ー異性装者を意味するが、ヒルシュフェルトは今日的な意味でのトランスジェンダーと、トランスセクシュアルもこの語に含意していたことは注意が必要であるーと同性愛者の峻別を試みた。(2)オイレンブルク事件(1906-1909)の展開を、ジャーナリストでスキャンダルの火付け役であるマキシミリアン・ハルデン執筆の記事から分析した。調査の結果、ハルデンは自身が発行する政治雑誌『未来』において、皇帝と側近たちの同性愛行為の有無については明示的に言及することはせず、側近ーとりわけオイレンブルクーが当時の男性性の規範から部分的に逸脱しており、ひいては「女性的特質」を有していたと強調することによって、皇帝と側近たちの親密な関係が同性愛的関係であったと仄めかしていたことが明らかになった。このことは、その後の裁判と、マスメディアの報道において、「女性的で女々しい男性同性愛者像」の形成と流布に直接的な影響を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、研究発表の機会を2回得た。2021年7月2日には、バーミンガム大学主催のInternational Project Conference Shifting Constellations: Germany and Global (Dis)Orderにおいて、性科学者マグヌス・ヒルシュフェルトの思想と活動を紹介することで、研究成果の一部を報告することができた。世界中の多様な研究者から、質疑応答や助言を受け、研究上の示唆を得た。本報告が、本研究を国外の研究者に紹介する重要な契機となった点も強調したい。 また、2021年8月9日には、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター/オルタナティヴ歴史学研究会主催のDESKワークショップ「帝国創建150年―ドイツ近現代史研究の動向」において、論文紹介を行った。この際にも、19世紀末から20世紀前半のベルリンの同性愛解放運動の観点から批判的検討を加えることができた。同時に、自身の研究をドイツ帝国創建との関係において位置付け直す視点も養われた。 一方、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、本年度実施予定であったドイツでの現地調査を断念した。それに伴い、オイレンブルク事件のマスメディアによる報道の分析を網羅的に行うことができなかった点が課題で残った。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、2022年度はオイレンブルク事件の余波を検討する予定である。また、2021年度に実施することができなかったマスメディアの分析も行う予定である。上述の通り、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、2021年度にドイツでの現地調査を行うことができなかった。2022年度は、状況が好転すれば、現地調査を実施したい所存である。また、状況が好転しなかった場合は、文書館と連携を図り、現地調査を行わずとも研究を進める策を講じる予定である。
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Research Products
(2 results)