2022 Fiscal Year Research-status Report
欺瞞による無知の行為の有責可能性についての哲学と法学の融合的研究
Project/Area Number |
21K00041
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
太田 雅子 明治大学, 研究・知財戦略機構(和泉), 研究推進員(客員研究員) (50376969)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉良 貴之 愛知大学, 法学部, 准教授 (50710919)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 無知による行為 / 法的責任 / 道徳的責任 / 欺瞞 / 非難 / 弁明 / 正当化 / ナッジ |
Outline of Annual Research Achievements |
行為者が自らの行為に責任をもつ、あるいは他者が行為者に責任を問うことができるためには、行為者が自らの行為がどういうものであり、それがどのような影響を引き起こしうるかに関する「知識」が不可欠である。この知識を欠いている「有責な無知」に責任を課すことができるかどうかという問題に哲学的・法学的方面からどうアプローチするかが本研究課題の目標である。 本年度は、研究代表者の太田は、無知による行為の有責性を批判するギデオン・ローゼンの論証、とりわけ「無知の責任についての懐疑論」の妥当性を批判的に検証する発表を行った。さらに、行為の「無知」を「誤った信念」として捉え、男女間の教育方針の不平等や奴隷制の容認など差別的行為の端緒とみなすローゼンおよびエリザベス・ハーマンの論考をとりあげ、行為の無知は必ずしも誤信念とは捉えきれないという反論を行い、「〇〇が悪であることを『知らなかった』」という行為者の主張が実は「知ることができるはずであったのに知ることを怠った」あるいはあえて目をそむけたという「欺瞞」の可能性も視野に入れ、さらに「知らなかった」ことが行為の弁明になりうるか、などの様々な問題領域への広がりを見せ、無知による行為と差別との関連の指摘によって、本研究に新たな方向性を見出すことができた。 研究分担者の吉良貴之は、主に「ナッジ(間接的に、あるいは目に見えない形でひとに特定の行為を促すこと)」に関して研究成果を発表した。このテーマは、行為者の無知の行為を促すという意味で本研究とも密接な関連があるため、研究代表者としてもナッジと無知による行為の関連性をより深く追究する必要があると考える。無知の行為の責任とナッジとの関連は、哲学若手研究者フォーラムで行ったワークショップ「行為・知識・責任:法と哲学の対話」において、研究課題遂行上の新たな発展を見せるきっかけとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は参加学会が対面形式となることが多くなり、関連領域の研究者との議論を活発に行うことができた点では進捗が見られた。学会発表も順調に行い、本数も増えている。しかし、研究代表者が研究に取り組むための時間配分がうまくできず論文化が進んでいないため、研究成果の周知の点で不十分さが見られる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度および2022年度の研究発表の論文執筆を進め、さらに研究分担者の吉良貴之氏が進めている「ナッジ」の分析成果も取り入れて、本研究課題の目標である「哲学と法哲学の対話」の側面を積極的に押し出していきたいと考えている。 また、本研究課題採択前から進めていた、「強制による行為に責任は生じるか」という課題について、ユーゴスラビア内戦時、上官からの脅迫によってムスリム虐殺に加担させられたドラジェン・エルデモヴィッチの責任をどう規定するかの研究も視野に入れたいと考えている。この行為は無知により行われたものではないものの、選択の余地のない外的要因により本人の意思に反する行為をせざるをえなくなった事例であるという点において、本研究課題との共通点が見られるからである。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響がまだ残っており、参加を予定していた海外学会・研究会の中にはオンライン開催も少なくなかったため、海外出張費の利用機会がほとんど得られなかったことが主な要因である。。今後の使用計画としては、国内外への学会に積極的に参加するとともに、国内外図書購入の購入もより積極的に行い、知見を深めつつ研究課題の遂行に尽力したい。
|
Research Products
(13 results)