2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00053
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
工藤 量導 (クドウリョウドウ) 大正大学, 仏教学部, 非常勤講師 (60624674)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中国仏教 / 吉蔵 / 道誾 / 道世 / 道安 / 僧叡 / 浄穢の議論 / 五種土説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中国仏教における共通の議論テーマであった「仏土論」について、その発生期とみられる東晋代から南北朝期の文献資料をもとに、いつ、どこで、誰が関わり、どのような思想的状況において仏土論が成立し、展開していったのかを明らかにすることを目的としている。本年度は①三論宗の吉蔵(549-623)の五種土説、②道安『浄土論』の新出逸文に関する研究を進めた。 まず①について、五種土説は多様な仏土を総括的に整理した吉蔵の学説であり、計五つもの著作に取りあげられているにも関わらず、その思想的な意義を掘り下げた研究が皆無であった。そこで吉蔵の各著作における五種土説の論述内容について、「浄穢の配分」と「浄穢の時間」という二つの着眼点から比較検討を行った。結果として、初期の著作ではあいまいだった五種土説の命名基準が、中期の著作では浄穢の時間というコンセプトが明確になってゆくが、晩年はむしろ僧叡の学説(浄穢の配分)に準じた名称に回帰してゆくようになる。すなわち吉蔵の著作間において少なからざる変遷がみられる。 次に②について、北周の道安『浄土論』は南北朝期の仏土論における重要な理論書であったと考えられるが現存せず、慧影『大智度論疏』、道綽『安楽集』、懐感『群疑論』の逸文が残されるのみだった。このたび新出逸文と思しき内容を唐代初期の文献である道世『法苑珠林』および道誾『観経疏』の中に発見したため、その検討を行った。結果として、『法苑珠林』『観経疏』に引用される五種土説はいずれも道安『浄土論』の逸文でほぼ間違いなく、両者に共通する西明寺という経歴を考慮すれば、同時期の引用であるものの、『観経疏』がやや先行すると見られる。道安『浄土論』の五種土説は、吉蔵が伝える僧叡の五種土説と内容的にほぼ一致しており、『大智度論』という共通点から、おそらく道安が僧叡の学説に影響を受けて援用したものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、中国仏教における仏土論に関する文献として、①吉蔵の著作、②北周の道安『浄土論』という二つの課題を中心的に取り扱った。これらの検討を通じて、仏身仏土論の展開と浄穢の議論(報告者の若手研究「中国仏教における仏土の本質をめぐる浄穢の議論に関する研究」18K12200)が深く関連していることが明確になったことは研究の進展において重要な成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、中国仏教における仏土論の源流を解明する文献として羽271『雑義記』を取りあげて研究を進めてゆく予定である。従来の研究において、仏土論の源流と目されてきたのは、地論宗の浄影寺慧遠(523-592)の『大乗義章』浄土義における仏土論であったが、羽271『雑義記』は、申請者が知る限り、組織的な仏土論の情報を記すもっとも古い文献であり、かつ浄穢の議論にも論及がある。慧遠『大乗義章』浄土義より思想的上流に位置する羽271『雑義記』の教理的立場を明確にすることで、仏土論の源流に肉薄することができると考えられる。また同時に、吉蔵の仏土論についても引き続き研究を進めて、仏土論に関する思想史研究を推進してゆきたい。
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