2022 Fiscal Year Research-status Report
近世近代移行期における暦学と仏教・神道・陰陽道との相互関連に関する宗教史的考察
Project/Area Number |
21K00072
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
下村 育世 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (00723173)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 正彦 天理大学, 人間学部, 教授 (00309519)
林 淳 愛知学院大学, 文学部, 教授 (90156456)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 陰陽道 / 陰陽師 / 仏暦 / 梵暦運動 / 仏教天文学 / 太陽暦 / 神道 / 明治改暦 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年9月には、日本宗教学会・第81回学術大会において、当科研メンバーで「近世近代における暦の流通と宗教文化」と題するパネル発表を行った。各自の発表タイトルは、「近世の仏教暦と梵暦社中」(岡田正彦)、「奈良弘暦者・吉川家の近代」(下村育世)であった。同パネルでは、小田島梨乃(東京大)「近世後期における三島暦師・河合家の頒暦」と馬場真理子(東京大)「大雑書にみる近世の暦注観」の発表も併せて行われ、中牧弘允(国立民博)がコメンテーターを担当した。発表要旨は『宗教研究』第96巻別冊(2023年3月)に掲載された。 12月には、当科研メンバー全員で、近世期の伊勢御師とその旧跡の共同調査を行った。伊勢市の丸岡宗大夫邸にて、御師関係の資料を閲覧し、御師の活動について聞き取り調査を行った。2023年2月には下村と林で、幕府天文方の渋川家の子孫にあたる海野家所蔵の資料を閲覧し撮影した。3月には、中牧に案内をしてもらい、当科研メンバー全員で吹田市立博物館蔵の橋本家文書にある暦史料の共同調査を行った。また新日本カレンダー会社(本社大阪)に行き、暦のコレクションを閲覧した。 個々の成果として、2023年2月に下村が『明治改暦のゆくえ――近代日本における暦と神道』(ぺりかん社)を刊行した。3月には「奈良弘暦者・吉川家の近代 ――陰陽師の身分喪失と暦師の家業継続」と題する論文を公開した。また岡田が、2022年10月にシカゴ大学の国際フォーラムの「Interpreting Japan Interpreting Buddhism」において、「Buddhist Science in 19th Century and Modern Buddhism in Japan.」とするタイトルの発表を行った。2023年3月には、下村が神道宗教学会研究例会にて「近代の暦における暦面掲載事項」と題する発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年から続くコロナ禍により、2022年9月の日本宗教学会もオンライン開催となったように(当科研メンバーも登壇)、各地に史料調査に出かけ新たな史料発掘をする機会や、研究者同士で対面で意見を取り交わす機会は今年も多くはなかった。しかし年末あたりから、徐々に共同調査に出かけることができるようになり、12月に伊勢市に御師調査、2月に海野家の史料調査、3月に橋本家文書のなかの暦史料調査などを行うことができた。海野家と橋本家の文書はこれまで知られていなかった史料群であり、研究の発展が期待できるものである。 日本宗教学会・第81回学術大会でのパネル発表は、各自が史料調査に出かけにくいなか手元に既に保持する史料の見直しや、国立公文書館のデジタルアーカイブなどの利用による地道な調査による成果である。馬場は、大雑書について、初期の成立過程を仏教者との関わりに注意を払いつつ考察した上で、統制を受け続けた暦とは異なるその流通の特徴について、書肆の存在を軸に論じた。岡田は、江戸時代に仏教天文学の理論を体系化し、門弟たちに「梵暦/仏暦開祖」として顕彰された普門円通の門弟たち(梵暦社中)が刊行・頒布した仏暦と、梵暦運動との関係を考察するとともに、彼らの編暦・造暦・頒暦活動が土御門家の本所支配の文脈とは異質の活動を背景とした暦であるとした。小田島は、三嶋暦を取りあげ、他地域の暦師や暦問屋との暦の頒布を巡る裁判が、従来の通説以上に長く幕末まで続いたこと、また三嶋暦師による本所支配への抵抗を示した上で、その特徴を江戸暦問屋と比較検討した。下村育世は、奈良・吉川家の資料(国立歴史民俗博物館蔵)をもとに、弘暦者による、近代の国家的に統制された造暦・頒暦や大麻頒布に関わる活動の一端を明らかにするとともに、近世近代との活動の連続性と非連続性について考察した。今回のパネルでは暦の流通の様式を一定程度明らかにできた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、暦学と仏教、神道、陰陽道との相互関連を解明するものであるが、これらとの関わりが明治改暦でどのように変化したかを考えることも重要である。2023年は明治改暦150年の節目の年にあたり、各地でそれに関わる催しやシンポジウムが開催される。当科研でも、来る2023年9月の日本宗教学会・第82回学術大会では、明治改暦から近代日本を考える視点からのパネル発表を企画している。明治改暦を機に、暦面からは陰陽道に基づく暦注は排除され、代わりに神社神道に基づく事項が掲載されるようになる。当時はまだキリスト教の禁教下でもあったが、「グレゴリオ暦」が採用されたと通念的には理解される。改暦をめぐる背景や思想的状況について再考することを予定する。 また2023年10月から12月にかけて、国立歴史民俗博物館で陰陽師と暦に関わる企画展が開催される。林と下村はこのプロジェクト委員として、暦にかかわる展示を担当しており、暦の歴史を広く一般の人にもわかるような図録やキャプションの執筆を鋭意行っている。 これまでコロナ禍で史料調査が難しいところがあったが、今後は史料の収集や発掘、各種の研究機関とのやり取りなど、研究を支えるうえで必要な活動を積極的に行っていく必要がある。
|
Causes of Carryover |
2020年から続く新型コロナウィルスの流行にともない、本研究の主たる方法である史料調査などの研究活動が低迷・停滞していた。これまで収集した調査史料やそれに基づく史料分析は進められるが、新規の宿泊を伴う遠方での調査や入構禁止となっている他大学図書館での史料調査などは、2022年の年末あたりまで難しい状況にあった。また各種の研究会や学術大会なども、当初は全国的に対面ではなくオンラインで開催される状態で、それらの出張に伴う旅費なども必要なくなった。 2023年度は、「コロナ明け」の声も聞こえるようになり、学会も対面開催、海外調査なども出かけることができるようになってきたため、各地の史料調査にも出かけ、研究課題を遂行できるようにしたい。
|