2021 Fiscal Year Research-status Report
鉄道という宗教:19世紀中葉フランスにおける「距離」と社会思想
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21K00080
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
金山 準 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (30537072)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 思想史 / フランス / メディア / 宗教的なもの / 社会的なもの / 交通 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最大の目的は、フランス19世紀中葉、具体的には七月王政期(1830-48)から第二帝政期(1852-70)にかけての社会思想を、鉄道の主題を軸に検討することである。政治革命・産業革命にも比する世界史的意義を有する19世紀の交通の発展、具体的には鉄道網の飛躍的拡大について、これまで物流史や産業史の観点からは検討されてきたものの、それを同時代の思想家がどう捉えたかという点についてはこれまで十分に検討されてこなかった。 この問いが興味深いのはとりわけ以下の理由による。鉄道は同時代の重要な問いとしての「連帯」をまさにインフラ面で支えるものである。と同時に、物理的・精神的な距離の急速な縮減は、宗教的な想像力を強く刺激するものでもあり、しばしば鉄道ネットワークの拡大と円滑化は、「交感(communion)」として捉えられた。その意味で鉄道の主題は、19世紀フランス思想史研究の重要な主題である「社会的なもの」と「宗教的なもの」を架橋する可能性を持っている。 本研究で中心的に扱う思想家はM・シュヴァリエ、P・ルルー、P.-J.プルードンの三者である。第一年度である今年度は、まずフランス鉄道網構想の原点に位置づけられるM・シュヴァリエについて文献収集と検討をおこなった。ただし今年度はシュヴァリエについて具体的な成果を報告するまでには至らなかった。 それと並行して、研究実施者のかねてよりの研究対象であるプルードンの思想についても研究を進め、単著『プルードン 反「絶対」の探求』(岩波書店、2022年)を刊行した。本書のうち、「連合主義」を論じた第三章と、「集合理性」を論じた第四章がとくに本研究に関わっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シュヴァリエについては日本語の先行研究の少なさもあり、文献の収集と検討に予想以上の時間を要し、成果を公表するまでには至らなかった。他方でプルードンについては単著の形で成果を刊行することができ、彼の鉄道論についての見通しも得ることができた。以上より、全体としては順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
シュヴァリエについてはフランスにおける鉄道と思想の関係を考える上で中心的な存在であり、今後も研究を続行する。なお本研究の対象となる3人の思想家についてはいずれも邦語の研究が少なく、文献の収集・検討に時間がかかることが予想されることから、今後の進展の度合いによっては研究対象を限定する可能性も検討している。具体的には、シュヴァリエとプルードンのみを対象とするというものである。両者は重要な先行研究(P. Musso, Critique des resaux,2003)においても鉄道を論じた最重要の思想家として挙げられており、この二名に限定することによっても本研究の当初の目的は果たしうると考えられる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により国内出張が一切行えず、今年度当初に旅費として計上していた予算が執行できなかった。今後の社会状況にもよるが、この分については次年度(第二年度)での執行を予定している。
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Research Products
(1 results)