2022 Fiscal Year Research-status Report
現代ピアノ音楽創作における打鍵、ペダリング、ハーモニクス奏法と音の減衰の諸相
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21K00212
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
前田 克治 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (00449612)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 作曲 / 現代音楽 / ピアノ / 打鍵 / ペダリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代ピアノの多機能化と引き替えに本来の価値を失いつつある「減衰音」という最大の美質に着目し、その減衰の諸相を、「作曲」「演奏」の双方向からのアプローチで探究するものである。 令和4年度の研究実績は、次のとおりである。 まず、作曲の方では、令和3年度に実施した文献調査、様々なペダリングや打鍵の実践的研究に基づき、新作「Dawn Light(曙光)」を完成させた。本作において新たに試みたのが、ソステヌートペダルの可能性のさらなる探究である。ハーモニクス奏法の一種であるが、予め最低音域の弦が1オクターブ半にわたり常に開放された(ダンパーが上がった)状態になるよう鍵盤を静かに押さえた上で、棒状の物体をペダルの裏側に挟み込む。このようにして全曲にわたりこのペダルを踏み込んだ状態に固定しておくことで、鍵盤を弾いた際に常に仄かな残響が確保されるほか、両足がフリーになることで、ソステヌート(中央)の効果に加えて、ダンパー(右)、シフト(左)のすべてのペダルの同時使用が可能となる。さらに左右のペダル操作に柔軟性が生まれることでより微細な響きの折り重なり、混合、滲みのニュアンス、遠近法(響きの多層性)が得られることとなった。 次に、演奏の方では、複数の調律師にヒアリングを行ったり実際に調律を依頼したりして、文献との照合を行ったほか、相応しい音律、調律について検討を行っていった。その成果として、令和5年3月には、新作を含む自作4曲についての試演を目的として演奏と解説を含むレクチャーコンサートを開催し、様々な音楽的効果について検証すると共に、令和5年8月の録音に向けてのシミュレーションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は、論文作成と新作ピアノ作品創作を予定していた。 後者については、令和3年度の下準備に基づき、新作「Dawn Light(曙光)」を完成させた。特に、ペダリングの探究において、新たな試みを実践することができた。 一方、前者については完成させることができなかった。理由としては、複合的要因が考えられるが、調査に十分な時間を割くことができなかったことが挙げられる。 また、令和5年のレコーディングのための会場を選定しなければならなかったが、平均律と古典音律(ヴェルクマイスターⅢ)の2種の音律が必要であり、且つ内部奏法を含む楽曲もあるため、非常に厳しい条件となった。しかも、どれも減衰音をテーマとする極めて静謐な楽曲であるため、豊かな響きと静穏な環境が望まれる。また、会場のピアノもベストなものでなければならない上、自作自演のため、演奏者のコンディショニングにも細心の注意を払う必要がある。以上についてひとつひとつ検証をし、すべての条件に適う会場、及び録音方法を模索した。最終的に、高知県立美術館ホールに大学所蔵のSteinwayフルコンを持ち込み、4日間の録音を敢行することで落ち着いたが、予想外に時間をとられることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、令和5年8月22日~25日に高知県立美術館ホールで作品収録を控えており、それに向けて準備を進めていく。一部、作品の改作を行い、練習を積み重ねていく。収録までに2度目の試演会を開催できればベストであるが、条件次第である。また、録音技師、調律師等との綿密な打ち合わせが必要である。収録後は、マスタリング作業や、ブックレットの執筆、打合せ等、CD完成に向けての諸々の作業が予定されている。 同時進行で大学紀要に発表する論文を書き上げていく。論文では、新作を含む20年来のピアノ作品創作実践の成果を明らかにすべく、その手法について整理を行っていき、11月末の完成を目指すこととなる。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、調律費や練習のための会場利用以外に目立った支出はなかった。 当研究の最大の目的は、令和5年度のCD収録であり、ホール使用料、セッション録音、編集・マスタリング費、印刷費、ピアノ運搬費等、多くの支出が見込まれるため、次年度使用額として充当させるものとする。
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Remarks |
〈演奏と解説〉現代ピアノ音楽創作における打鍵、ペダリング、ハーモニクス奏法と音の減衰の諸相 令和5年3月21日、高知大学教育学部音楽棟ホールにて実施。 演奏曲目:影と形(2010)、三和音(2012)、クロマティック・スペース(2020)、曙光(2022)
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