2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Soviet Agrobiology School Based on the Archival Documents of the Lenin All-Union Academy of Agricultural Sciences (1935-1948)
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21K00246
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
齋藤 宏文 九州工業大学, 教養教育院, 准教授 (30573050)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ルィセンコ主義 / ソ連遺伝学 / 農業科学アカデミー / 農業生物学派 / グルシチェンコ / 自然改造計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年2月に始まって以降、長期化するロシアによるウクライナへの軍事侵攻のためにロシアへの渡航が事実上不可能となったことを受けて、2022年度の課題研究の実施可能性は大きく制限されることとなった。モスクワにて農業科学アカデミー関連の文書史料を閲覧できないゆえに、ソ連の農業生物学派内部での人物関係の把握とルィセンコの権力状態の実態解明を軸とした本研究課題は、依然満足に進められていない状況にある。 そうした厳しい制限下でありながらも、日本国内で利用できる資料に基いて、第二次対戦後における農業生物学派の活動の一局面について一定の学術的知見が得られた。とりわけ、ルィセンコがソヴィエト生物・農学界を完全掌握したいわゆる「ルィセンコ事件」(1948年8月)の後に、日本の遺伝学者、農学者や、森林学者、土木学者等が提出した農業生物学派への評価を調べたところ、農業生物学派の活動内容の戦前からの変化と科学政策における影響力の拡大を把握することができた。この研究内容の一部は、1948年10月にその実施が公布された「スターリンの大自然改造計画」の最初のステップとして知られる植林計画へのルィセンコの積極的関与についての知見として日本語の論稿にまとめられている(この論稿は2023年4月に図書の一章分として公刊された)。森林学分野においてこれまで一切実績を有していなかったルィセンコの「果敢な挑戦」(実際は無謀な挑戦に終わった)が、農業生物学派内部でどのように受け取られたのかを分析することは、ルィセンコの権力状態の実態を知る上で有用な証拠事例となるだろうと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要に記したとおり、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が最大の理由である。これにより農業科学アカデミーに関する文書を所蔵するロシア国立経済文書館(モスクワ)で史料調査を実施することが事実上不可能な状態が続いている。
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Strategy for Future Research Activity |
現状ではロシアとウクライナの戦争状態、および国際関係の推移を見守るより他にない状況といえる。2023年内に問題に対して何らかの解決が図られ、渡航に必要な安全性が保証されたら、課題期間を一年延長することを含め、残された期間内で可能な範囲での文書史料の調査を行う計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界的流行拡大、およびウクライナ情勢の影響により、まとまった期間、モスクワに滞在しての史料調査が実施できなかったのが、次年度使用額が生じた理由である。状況が好転し、滞在の安全性が十分に確保できた場合に、現地での史料調査を行う。課題期間の延長の可能性を含めて、与えられた時間内で可能な限り効率よく史料調査を実施する方法(例えば複写サービスの活用など)を検討する。
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