2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K00264
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
田中 則雄 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (00252891)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 地方実録 / 実録 / 近世小説 / 日本近世文学 / 飢饉 / 一揆 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世においては、天明期(1780年代頃)、天保期(1830年代頃)をはじめ度々飢饉が発生し、それに付随して一揆も起こっている。かくて各地方には、こうした飢饉や一揆について記した実録が数多く残されている。また実録以外にも、歴史文書を含む、関連する諸資料が伝存している。 近世山陰の飢饉・一揆に関する実録や諸資料を調査した結果、これらがそれぞれ固有の執筆意図に基づいて制作されていることが明らかになった。即ち、筆者独自の観点に拠って飢饉・一揆の特徴や本質を把握し、それを後世の人々に的確に伝えるため、記述の方法に独特の配慮がなされている例を挙げることができる。また一方で、事実を淡々と記録するという態度に徹したものもある。更には、災禍の記憶を継承しようとする意識が近代にまで続いたことが確認できる資料もある。 出雲国の天明一揆について記した実録『雲国民乱治政記』は、小説的虚構を多く含むが、実はそれらの表現によって、この一揆の特徴を強調して描き出そうとしたものと解し得る。また、鳥取藩の二宮源蔵による『凶歳聞見録』は、同藩における天保飢饉の実態を客観的に記録したものであるが、そこには、将来の災禍に備えるにはまず既に起こった災禍の現実を正確に把握し記述して残すことから始まるという認識が見て取れる。『因伯飢饉の実際』は、近代(1919年)に至って、近世後期の飢饉を実際に経験した古老らから聴き取った内容を記述して後世へ継承しようとしたものである。 近世の飢饉・一揆について記した実録や諸資料は、執筆意図を捉えることにより、その特徴や意義を的確に把握できるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近世山陰の飢饉・一揆について記述した実録について、関連する諸資料と比較対照しながら考察し、その特色を明らかにし、論文化して公表した。それ以外の資料収集についても概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
鳥取藩士に関係する寛文11年(1671)の事件に関する実録と史料について資料収集を行っており、考察の結果を2022年度内に論文化して公表する予定である。
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Causes of Carryover |
当年度の研究では山陰地域(島根県、鳥取県)の資料を主たる対象とすることとなったため、調査のための旅費が当初の予定より大幅に少なくて済むこととなった。次年度は遠隔地での調査も計画しているため、繰り越し分を含めて十分な旅費を用意して臨む。
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