2021 Fiscal Year Research-status Report
『狭衣物語』異本系本文の研究-集団的創造としての[改変]を問う-
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21K00270
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
今井 久代 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90338955)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木谷 眞理子 成蹊大学, 文学部, 教授 (00439506)
吉野 瑞恵 成蹊大学, 公私立大学の部局等, 客員教授 (00224121)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 狭衣物語 / 異本 / 改変 |
Outline of Annual Research Achievements |
月に2回ぐらいのペースで、zoomを使った会合をもち、巻三の伝慈鎮本について、本文校訂と解釈(大まかに現代語訳をつけていく程度)をつける他、流布本(新潮日本古典集成の本文を使う)、深川本(新編日本古典文学全集の本文を使う)、九条家旧蔵本(これが異本系本文と目されているため)を見比べて、それぞれの本の違いを確認した。 大まかに言って、流布本・深川本・九条家旧蔵本はだいたい似た傾向をもった本文で、これに対して明らかに途中までの伝慈鎮本は、異質さを感じさせる本文であった。ただし、巻一や巻二で読み取れるような、一貫した世界観と評し得るような、持続的な本文改変の意図を読み取ることが難しかった。しかも、最後の方は多少乱れた本文ながら、流布本にぴったりと重なる本文となっていた。 本文が異質であることに、何らかの意図を読み取り、改変の意図を評価できると思われた巻一巻二と比べ、巻三の本文のあり方をどう評価するかは難しい問題である。このことを別角度から考えるために、巻二の異本系本文のあり方を、巻一までも含めながら再評価する作業に、戻ることにして、現在は巻二を注釈レベルで読み込む作業を並行して進めることにした。ここで認められる視点を巻三に再び敷衍することで、物語を改変するという行為について、再評価できるのではないかと考えている。『狭衣物語』は、さまざまな本文をもった作品として名高く、原初形態を評価することは既に難しいが、原初形態を評価することが難しいほどに、さまざまな改変を含み混んだ本文が作られてしまう、その原動力については、考察の余地がある。そのためにも、巻一巻二と巻三の、異本系本文の質的差異について。慎重に見極める必要があり、その一助として、巻二および巻三の異本系本文の質について、改めて吟味した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で対象とする巻三の異本系本文(伝慈鎮本)については、現代語訳をつけて大まかな意味を取るとともに、深川本流布本や九条家旧蔵本との異同についてだいたいの傾向を確認するという作業は順調に終えることができた。 この作業が終わったところで、もう一つの対象である巻四に進んで同様の作業を重ねるか、それとも巻二に戻って、巻二のあり方を視野に入れることで巻三の異本系本文の改変の質的意味を評価してゆくか、二つの方向性があった。このとき、現在上海外大で日本語講師を務めている研究協力者が、コロナ禍もあって帰国を1年延ばすことになったので、巻四の伝為秀本の翻刻を進めることができないことが明らかになった。 このため、まず先に巻二の本文の質を見極めて、巻三と比較するという作業に先に進めることとした。ここの部分はおおむね順調に進んでいる。しかしながら、巻四を研究するために必須な、巻四の翻刻がまだ進んでいないこと、また巻三の本文の質的意味をどう評価するかがうまく定まらず、論文発表に到らなかったので、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者は、2022年の夏休みに入るころ(7月中)には、上海外大での日本語講師の職務を終え、帰国する予定である。従ってその帰国を待ち、夏期休暇を利用しながら巻四の翻刻を一気に進めることとする。 巻四の翻刻作業と並行する形で、2022年度中に巻二の本文の評価についてある程度の目処を立てる。現在のペースであれば、2022年度中に巻二の物語の山場である女二宮物語の大方の部分の精読を終え、2022年度の終わりごろにはその後日談とも言うべき部分、言い換えれば物語が緊密な筋立ての展開を見失う部分に入ってゆく。このあたりの異本系本文が変わってゆく姿と、巻三の質的意味を評価しづらい異本系本文の姿とには、通底するものがあると考えている。この点を改めて考え直すことで、巻三の異本系本文の質的意味をきちんと評価し、研究論文にまとめることをめざしたい。 こうした二つの方向性について2022年度中にきちんと進めることで、2023年度以降、巻四の本文の研究に取りかかり、流布本その他の本文類との距離についた考える。そのうえで、巻三と同じく、改変についての一貫した意図を読み取りにくい本文であるか、それとも巻二以前のような、もう一つの物語を作るといった意図が読み取れる本文であるか、改めて評価し直し、『狭衣物語』にとって本文の改変が何であるかという、根本的な問への答えを考察してゆきたい。
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Causes of Carryover |
最大の理由は、翻刻作業に取りかかれず、人件費が発生しなかったことによる。また、コロナ禍のため、写本を収蔵する現地に赴き、写本の姿を調査することもできず、旅費も発生しなかった。 こうした部分の遅れにより、書籍購入も多少見合わせてしまったところがあった。 2022年度は、夏休み以降研究協力者が日本に帰国しているため、巻四の翻刻作業を一気に進めることができるであろう。このことにより、人件費が発生する。 また、コロナ禍との共存ができるようになり、現地に赴いて写本の姿を確認したり、対面の学会に参加するなど、研究活動が活発化してゆくと考えられる。これに伴い、書籍などの購入も、積極的に行ってゆきたい。
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