2022 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期の日本文学におけるdime novelsの影響
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21K00290
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
堀 啓子 東海大学, 文化社会学部, 教授 (60408052)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | dime novel / Sexton Blake / Dora Thorne / 尾崎紅葉 / 小栗風葉 / 黒岩涙香 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間二年目にあたる本年は、昨年度に引き続き研究計画の第一段階の作業を、新たに着手した第二段階と並行して行った。この段階で着目したのがdime novels市場において大きなシェアを誇ったひとつのシリーズである。それはSexton Blakeという主人公を擁し、さまざまな媒体で展開された、一連の作品群である。内容はSexton Blakeという主人公の活劇譚で、それぞれ探偵ものあるいはや冒険もののテイストを有する一話完結型の作品群である。このシリーズは従来、日本の文学青史では触れられたことはなく、研究対象とされたことも皆無であった。 しかし一連の作品は大正期の日本にもたらされ、文学作品としてのみならず英語教育用のテクストとして多くの読者に歓迎され、若人たちの英語力を培うことに大きな役割を担ってきた。じっさい、Sexton Blakeは同時代のイギリスやアメリカ、その他の欧州諸国においてもpenny dreadfulやstory paper、 comic booksの他にも芝居やラジオショー、テレビドラマ、映画など、さまざまなかたちに展開されて人々を魅了する人気ストーリーとなった。なかでも多くの支持者を獲得したのはdime novel市場である。もとよりdime novelとしての同シリーズの読者が、芝居やラジオ、テレビや映画作品のファンにもなるため、その線引きは不可能である。そしてこの絶大な人気を誇る作品群は、大正期の日本の英文学者であった島文次郎の目にとまり、シンプルな英文による明快なストーリー展開や主人公の紳士的な振舞が、島の共感を得てその手になり、英語教科書へと編まれたことで日本に普及していったのである。 今年度の研究は、このSexton Blakeをdime novelsの日本における受容の好例として認定し、その移入の経緯や普及、発展の調査を中心に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は当初の研究目的と研究計画に照らし、おおむね順調に研究が進展していると認識している。この判断基準は、以下に挙げる三つの点に関する自己点検に拠るものとする。 第一に、当初の研究計画にそって、dime novels 作品の日本移入について従来にない角度から検証を進められたこと。 第二に、上記の結果として今年度は特にSexton Blakeという新たなシリーズの研究に着手しえたこと。 第三に、dime novelsが文学作品のみならず学校の教育用テクストとしても展開された例を整理し、日本での受容に新たな光を当てられたこと、である。特にSexton Blakeを翻訳した作品中には原作を確認中のものもあり、これらの研究は最終年度へと引き継ぐ調査案件としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、今年度の研究の主軸としたSexton Blake作品の調査及び分析の続行、前年度から引き続き行っているCharalotte Brame のDora Thorne の翻訳の継続を並行して行いつつ、dime novelsを下敷きとして生み出された明治から大正期にかけての日本の翻訳や翻案が文壇でどのように受容され、それらが日本の文学史にどのように位置づけられたかを総括する。とりわけそれらの持つ独特なストーリーの世界観が後代の作品にどのような影響を与えたのか、本研究の主軸としてまとめていく。
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Causes of Carryover |
本年度は昨年度に引き続き、感染症の蔓延防止の観点から、出張による現地調査などが難しく、当初予定しておりました旅費や、その場で要されることを想定していた文献複写費や資料購入費などの支出が見込めなかったことが理由です。 次年度は本来予定していた現地調査を実施することにより、予定していた支出額を充てることを計画に入れ直しております。
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Research Products
(5 results)