2021 Fiscal Year Research-status Report
『洗心洞詩文』所収詩の全注釈ならびに大塩平八郎をめぐる幕末期詩壇の研究
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21K00296
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Research Institution | Tezukayama Gakuin University |
Principal Investigator |
福島 理子 帝塚山学院大学, 人間科学部, 教授 (40309365)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 大塩平八郎 / 洗心洞詩文 / 近世後期詩壇 / 広瀬旭荘 / 石川淳 / 二人権兵衛 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、1879年刊本『洗心洞詩文』所収の漢詩について、注釈の礎稿を作成した。その過程で、大塩平八郎の文学的興味の範囲が分かるとともに、彼が典故を踏まえた重層的な作法をかなり高度に会得しており、その方法によって自らの鬱屈や志を隠微に表現していることが分かった。当該年度は、新型コロナウィルス流行に伴う外出の規制により、出張調査が叶わず、資料捜索がほとんど行えなかったが、大阪歴史博物館に寄託されている新出の大塩平八郎漢詩屏風につき調査を行い、その本文を採収して訓釈を施すことができた。 また、石川淳の「二人権兵衛」を取り上げて論じた(「石川淳「二人権兵衛」論」『帝塚山学院大学研究紀要』2)。当論文は共著だが、福島の執筆した第一章において、本作における石川の周到な仕掛けが、大塩がダキニの法を会得していた、あるいは別の男が大塩の身代わりに首を落とされたなど、大塩事件当時、巷間に出回っていた噂話を組み込み、狐の技で大塩事件を千葉葛飾の地に再現するクライマックスへと至る構成になっていることを証した。さらに、大塩と同時代の詩人、広瀬旭荘の肉筆資料を取り上げ、考察を進めた。第一に刊本所収の作品が書軸や屏風などにおいて展開される際に、そこからいかなる情報を読みとることができるかということ。第二に旭荘詩に窺える、極めて主観的な自然描写が宋の蘇軾らの認識論的詩論の影響を受けていることを考察した。この内容は、和漢比較文学会第40回大会において講演発表を行った(「廣瀬旭荘の詩と書画」)。 なお、当該年度に行った研究発表の中に現代詩を扱った「島田陽子の「こんにちは」」(『帝塚山派文学会紀要』6)があるが、当論文においては、日常の言語が詩的言語に飛躍する瞬間を捉えるとともに、詩人の社会意識がいかに詩に反映されているかを考察した。これらの観点は大塩平八郎を対象とする本研究と通底している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画として、まず、大塩平八郎の『洗心洞詩文』所収漢詩のすべてに正確な訓読と注釈を施すことを掲げたとおり、訓読と注釈の礎稿を作成した。また、大塩の詩を同時代の諸作品と比較し、近世漢詩史に位置づけることを目しているが、当該年度は、同時代における最高の詩人である広瀬旭荘を取り上げ、その表現方法に影響を与えた中国の詩人らの思想について考察した。進捗状況を「順調」とする所以である。 ただし、『洗心洞詩文』より逸した詩文の捜索、収集については、新型コロナウイルスの流行により、行動が制限されたため、各地に調査に赴くことができず、大阪歴史博物館所蔵の大塩平八郎漢詩屏風の調査とその訓釈を行うにとどまった。進捗状況を「おおむね」とした所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、礎稿を作成した『洗心洞詩文』の注釈について調査、考察を進め、完成をめざしたい。 また、行動する知識人としての大塩平八郎の思想を詩からいかに読み取るか、そして大塩と同時代の知識人たちがそれぞれ、どのように自己の志の実現を図ったか(あるいは図らなかったか)という問題については、当該年度は広瀬旭荘との比較を中心として進めたため、今後は頼山陽、梁川星巌、中島棕隠、寺門静軒らに対象を広げて行きたい。 『洗心洞詩文』より逸した大塩平八郎の詩文の捜索だが、その主なものは現在大阪歴史博物館が所蔵している。大塩の遺墨は個人蔵のものも多いため、その調査を今後どのように進めていくかが課題である。また、新たに市場に現れる大塩真筆資料は必ずしも多くないため、大塩研究会や日本史分野の大塩研究者と連携を図りつつ、本文収集を進めて行きたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、行動が制限されたため、各地に調査に赴くことができず、また海外での学会に参加がかなわなかったのみならず、国内の学会もオンラインで行われたため、旅費を使用する出張が行えなかった。 また、同上の理由で、新出資料の複写や購入を行うこともできなかった。 来年度は、『洗心洞詩文』注釈の完成に向けて、出張調査を再開し、同書より逸した詩文の捜索と収集に努める所存である。
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